初めての……
まあ、ビックリしました。
セシリオの装いが、まるで男子学生みたいなんですよ。
白のシャツにワイン色のリボンタイ、合わせているのは紺色のブレザー。ポケットにはエンブレム。さりげなくそのエンブレムは、ターナー帝国のものですから、ドキッとします。だって皇族の紋章ですからね。そしてピシっとセンタープリーツされたブレザーと同色のズボンに革靴。すべて上質で高級そうで、良家のご子息という雰囲気です。
何よりその装いは、彼のアイスブルーの髪と銀色の瞳にもピッタリでした。
「シェリーヌ公爵令嬢、素敵な本屋を待ち合わせ場所にしていただき、ありがとうございます! 三十分前に到着し、店内を見て回ったのですが、読みたい本が沢山あり……。帰国の際、わたしのトランクは本でいっぱいになりそうです」
そう言ってアイスブルーのサラサラの髪を揺らすセシリオは、なんだかその服装とも相まって、生徒会長みたいです。
「三十分前にいらしていたのですか!? かなりお待たせしてしまいましたよね!?」
するとセシリオは首を振り、それを否定します。
「わたしが勝手に早く来ただけです。それに待ち合わせ場所が本屋の場合、わたしは早めに行くのが普通でしたから。本屋でなら、いくらでも待ち合わせ時間が潰せます。本棚に並ぶ本を眺め、そこで一期一会を楽しむんです」
この言葉を聞いた私は俄然、嬉しくなってしまいます。だって私と同じ考えなのですから。
そこからはもう、店内をセシリオと二人、楽しく巡ることになります。
この本屋に並ぶものは、セシリオの母国であるターナー帝国では見かけない本ばかり。ゆえにセシリオは本当に一期一会を楽しんでいます。そして「気になる作品のタイトルは覚えきれません。よって今日は財布の紐を緩めることにしました」と、次々購入する本を手に取っていきます。
リリーさんとテトさんが待つレジカウンターには、セシリオが購入する本が山積みになっていました。これは帰りに護衛騎士の自慢の筋肉が大活躍になりそうです。
「あ、この本は……」
セシリオが手にした一冊の本、それは『初恋が最後の恋』というなんとも意味深なタイトルです。
「これは、ターナー帝国出身の作家の作品です。主人公は少年で、幼い頃に出会った少女に恋をして、それが彼にとっての初恋。ですが初恋は実ることなく終ったのですが……その後に思いがけない展開が待っています」
「まあ、それは気になりますね。まだ読んだことがないので、これは私が買って帰ります」
「ではこれは私からシェリーヌ公爵令嬢にプレゼントさせてください。今日の記念に」
これはビックリです。皇太子であるセシリオだったら、テトさんのお店の本、全部買うことだってできるでしょう。でもお金の問題ではなく。皇太子であるセシリオからプレゼントをいただくということは……それに見合ったお返しをしないといけません! それはセシリオもすぐに気が付いたようです。
「お返しとして、わたしもシェリーヌ公爵令嬢から本を一冊、プレゼントしていただいてよいでしょうか?」
「! ええ、それは勿論! 気になる本は沢山あると思いますが、どれにされますか?」
セシリオはしばし考え込み、こんなリクエストをしました。
「シェリーヌ公爵令嬢が初めて読んだ本は、このお店にありますか?」
まあ、そんなことを聞かれるなんて。
でもそんなこと、前世では会話の中でよくしていた気がします。
「初めて買ったレコードは何?」とか「初めて珈琲を飲んだのは何歳?」とか。
「初めて読んだ本……児童文学を読みましたけど、あるかしら……」