おばあちゃん、大好き!
「おや、まあ!」と言いそうになりましたが、何とか飲み込みます。
「ただ僕はあなたのおかげで変わり始めて、でもまだまだ成長途中で、いつか一人前と自分が思えるようになったら、気持ちを伝えるつもりでいました。ですが今回、僕は……国王陛下の意向もあり、ソフィー皇女の婚約者として、指名をされました。建国祭記念舞踏会での最初のダンスは、そういうことですから……」
そこでシャールはふうっと息をはきました。
告白を……されているのですが、シャールの好きが、孫が「おばあちゃん、大好き!」と言っているようにしか聞こえません。よって今、懸命に気持ちを伝えるシャールに「大丈夫、落ち着いて」と抱きしめたくなるのは……我慢です。
「でも僕は諦めたくない……と思っていましたが、あの花火大会で、すべて分かってしまいました。シェリーヌ公爵令嬢はあの時、一切の迷いなく、着ている服を脱ぎ、下着姿になったのです。多くの観衆がいるにも関わらず。その上で、僕だったら躊躇するような高さの橋から、川に飛び込んだのです。衝撃でした。下着姿を見たことなど、あの場にいた全員が吹き飛んだと思います」
これにはもう、なんと言ったらいいのか。
そうですよね。
皆様を驚かせてしまいました。
ですがあの時は本当に。
ああするしかないと思ってしまったわけで……。
ですがそうですか。下着姿になるより、川に飛び込んだ方のインパクトが強いと。
だからでしょうかね。
私が下着姿だったなんてこと、街でも噂にはなっていませんでした。
まあ、私が誰であるか、分かりませんからね。噂にしようにも、できなかったのかもしれませんが。
「もう夜で、気温だって下がっていました。川の水なんて、間違いなく冷たいはずです。下手をしたらご自身の命だって危ないのに。しかも僕はその時、シェリーヌ公爵令嬢は泳げるとは思っていなかったので、心底心配しました。ですが後を追い、飛び込む勇気が……ありませんでした。……僕は泳ぎの経験がなかったので……」
「まあ、シャール様、そこは気になさらないでください。私以外で川に飛び込んだのは、護衛騎士だけですから。警備隊の隊員や騎士も、あの場に何人もいたはずです。ですが咄嗟に動けた方は、精鋭中の精鋭の皆様。日々、訓練を行い、鍛えている方です。そんな方だから飛び込めただけなんですよ。泳ぎの経験がないのに飛び込めば、二次災害です。何もしなくて正解です」
私がそう言っても、シャールは引きません。
「僕は父上から泳ぎの練習もするよう、言われたのですが、その時は剣術の訓練に夢中で……。『来年の夏には挑戦します』と言って、父親の指導に従わなかったのです。父上は正しく僕を導こうとしたのに、僕は……。あの時、ちゃんと泳ぎを教えてもらっていれば、僕が飛び込んだのに……」
「シャール様、レオンハイム公爵が泳ぎの指導を提案したのは、たまたま夏だったからだと思いますよ。この夏に絶対泳ぎをマスターする=正しいこととは限りませんから。あまりそこで自分を責めないでください」
そして一番重要なことを伝えます。
「それにあんな風に飛び込みましたが、結局、私は失敗していますからね。皆さんに大迷惑をかけてしまいました。もう大後悔ですよ」
するとシャールが首をフルフルと大きく振ります。
「そんなこと、ありません! シェリーヌ公爵令嬢のあの勇気には、感銘を受けました。僕は……来年の夏は、ちゃんと泳ぎを習います。なにせソフィー皇女様は、泳ぎができるというのですから。……彼女の夫となる僕が泳げなくては、いざという時、ちゃんと守ることができません」
あらあら、シャールったら!
私のことを好きと言っていたのに。
でもこれでいいのです。だって私からするとシャールは、孫にしか見えないのですから。対してソフィー皇女とは年齢も近く、何より本が好きで趣味も合うのです。傍から見ても、プリンセス&プリンスでお似合いですからね。