どういうことかしら?
黒のテールコートのポマードが、声をかけてくれたのです。
ポマードは私との出会い以降、“あの悪名高いブラックのご子息”という異名から、“学園のヒーローのブラック”と称されるようになっていました。聞くとお父上も違法な仕事からは手を引き、今ではクリーンな仕事を中心にしているというのですから、何がきっかけになるか、分からないものです。
「シェリーヌ公爵令嬢!」
これまた黒のテールコートのエドマンドが私を見つけ、手を振ってくれました。相変わらずムキムキの筋肉で、シャツのボタンは外されています。でもそれも、見慣れていました。そうそう、彼のおかげで私、ちゃんと、元の体型に戻ったのです!
こうしてポマード、エドマンドと三人で話していると、ファンファーレが鳴り響き、いよいよプロムが開始するわ――と思ったら、あの案内標識が出てきたの。
あら、いやだわ。こんなプロムの冒頭で、何かしら。
この日はジョナサンも卒業ということで、国王陛下が来賓として、挨拶をしています。そういえばジョナサンに、まだ会っていません。婚約者ですから、プロムでも、彼とダンスをする必要があります。当日、会場で会えばいいと、言われていましたが……。
それよりも、案内を確認しないと。
『いよいよ、プロム(卒業舞踏会)が開始です。間もなく、断罪イベントがスタートです! 健闘を祈ります』
まあ、断罪イベントって……。おかしいですよね? 私、断罪されるようなことはやっていませんよ。
これは孫に、どういうことかしら?と、聞きたくなってしまいます。
「ミーチェ・シェリーヌ公爵令嬢!」
突然、ジョナサンに呼ばれ、案内標識が消えました。
ビックリして、声の方を見ます。そこには黒のテールコートのジョナサンと、イエローのドレス姿のヒロイン、シカリアーナ・ララック子爵令嬢がいます。
ジョナサンは、なんとも暗い顔で私を一度見た後、視線を広間にいる出席者へと、戻しました。
どうしたのかしら? どこか体調でも悪いのかしら?
「今から舞踏会が始まるということで、生徒会長でもあったわたしが、挨拶をさせていただくことになりました。ですがその前に。皆さんに伝えたいことがあるのです」
我が儘坊ちゃんのジョナサンは、婚約者ですが、いまだに孫にしか見えません。一体何を言い出すつもりなのでしょうか。
「わたしは、ミーチェ・シェリーヌ公爵令嬢との婚約を、破棄します」
会場の人達からはどよめきが起きています。でも私は「あらまあ、そうなの」と驚きながらも、少しだけ、良かったわと思っていました。孫としか思えない相手との結婚なんて、さすがに厳しいと思っていたので。
「承知いたしました、殿下。婚約とは、家同士での取り決めではありますが、王家からのご要望とあれば、従わないわけにはいきませんから」
すぐに応じてあげないと、ジョナサンは、不貞腐れてしまいます。ちゃんと応じると、返事をしました。
「な……どうして、そんな……」
即答したのですが、ジョナサンはご機嫌斜めなようです。すると横にいるヒロインが、ジョナサンの耳元で何か囁きました。何を囁いたのかは分かりません。ですがヒロインの言葉を聞いたジョナサンは、一度唇をぎゅっと噛みしめると、私の方を見て、再び口を開きます。
「そうあっさり婚約破棄を受け入れるということは、やはりそこにいる二人と恋仲なのだな! そこのエドマンド・トリーリとポマード・ブラックと!」
これには申し訳ありません。口が、口がぽかんと開いてしまい、閉じることができません。ジョナサンは、何を言い出すのかと思ったら。私が何も言えずにいると、エドマンドとポマードが、反応しました。