牛舎の地下に、なんと
その結果、秘密諜報部が屋敷で働く使用人を捕え、犬の飼育の有無を白状させました。さらに王都警備隊がアップルトン侯爵と取引のある弁護士や税理士を捕らえ、違法なお金の動きがないか、問い詰めたのです。
そこから分かったのは、とんでもない話です。
アップルトン侯爵令嬢の父親は、違法賭博に手を出しました。なぜそんなものに手を出す必要があったのか? それは手掛けている事業で大きな失敗をし、多額の損失が生じたからです。一攫千金でお金を手に入れよう――そう思っていました。
でも違うのです。
闘犬という、この国では認められていない競技があります。犬同士を戦わせ、勝敗を賭けるというもの。この闘犬を使った違法競技を、アップルトン侯爵令嬢の父親は主催していたのです。
王都というのは中心部から外れるにつれ、畑や牧草地が広がっています。そしてアップルトン侯爵令嬢の父親は、そんな牧草地として所有する場所に、大きな牛舎を建てていました。ですがそこで飼育されているのは、牛でありません。闘犬でした。そしてその牛舎の地下に、なんと違法闘犬場を造っていたのです。
完全な招待会員制で、金曜日や週末の夜に、闘犬を開催していました。
その儲けは相当なもので、表向きの稼業よりうんと稼いでいたのです。つまり、アップルトン侯爵家の家計の七割が、この違法闘犬で稼いだお金に支えられていました。
アップルトン侯爵令嬢の父親が失敗した事業というのは、表向きの稼業ではなく、まさに裏稼業。違法闘犬だったのです。
なぜ違法闘犬で莫大な借金を作ることになったのか。
それは別の違法闘犬場を運営する貴族から手に入れた、一匹の闘犬が発端でした。
その闘犬はとても強いことで有名で、アップルトン侯爵令嬢の父親は、前々から狙っていました。自身の所有する雌犬と交尾させ、強い闘犬を育てたいと思っていたのです。
すると相手から、別の強い闘犬が手に入ったので、欲しがっていた闘犬を格安で売っても構わないと言われました。これには大喜びとなり、アップルトン侯爵令嬢の父親は、闘犬を買い取ったのですが……。
その闘犬は、何らかの感染症に罹患していたようで、アップルトン侯爵令嬢の父親が所有するすべての闘犬が、その病に感染。全滅してしまったのです。
そのせいでアップルトン侯爵令嬢の父親は、膨大な借金を抱えることになりました。
この借金返済のため、一攫千金を狙い、違法賭博に、アップルトン侯爵令嬢の父親は手を出したのです。
自身が違法闘犬を経営していたのです。違法賭博で、勝ち逃げなどできないと、知っていたはずなのに。自ら足を踏み入れ、アップルトン侯爵令嬢の父親は、泥沼にハマってしまったのです。
もはやその額は、一人の貴族がどうこうできるレベルではなくなっていました。そこでアップルトン侯爵令嬢の父親は、娘に目をつけたのです。
そこからは予想通りで、なんとかセシリオの婚約者に娘を収めようとし、邪魔者だった私を排除するため、闘犬としては使えなくても、特定の匂いに反応し、相手を襲わせる犬――使役犬を使い、襲い掛からせたのです。
救貧院に同行していた小型犬、そして使役犬は、アップルトン侯爵令嬢も住む屋敷で飼育されていました。敷地の一画に犬を飼育するための専用の小屋があり、そこで子犬から育てているというのですが……。
使役犬であれ、闘犬であれ、その体躯はしっかりしたもの。そうでなければ、人間の襲撃、闘犬同士での戦いで、生き残ることはできません。そうなると屋敷の方で一緒に飼育されていた小型犬は、使役犬のカモフラージュのため、だったのでしょうか?
答えはノーです。
育てている闘犬の練習用に、小型犬は飼育されていました。
同じ闘犬同士で戦わせ、どちらかが怪我をしたり、命を落としたりすると、損失になります。そこで最初の頃の練習では、この小型犬を使っていたというのですから、ヒドイ話です。アップルトン侯爵令嬢はおそらく、当時、このことを知らなかったのではないでしょうか。知らないからこそ、救貧院に犬を連れて行くことを提案したと思うのです。
実は闘犬の練習のため、小型犬を飼っていたと、アップルトン侯爵令嬢が知った時、どんな気持ちになったのでしょう。そこで父親を止めることは、できなかったのでしょうか? もう既に歯車が狂っており、後戻りできない状態だったのでしょうか。