随分と破廉恥なことを……
セシリオは私をエスコートし、食堂へ向け、歩き出しました。私達の後ろを、シャールにエスコートされたソフィーが続いています。
食堂には既に騎士が待機していて、すぐに料理が用意されました。建国祭の最終日、宿では宿泊客のために、夕食を奮発していたのです。おかげで皇太子と皇女が口にしても、問題のない料理を提供してもらえました。
今、この宿は、ターナー帝国の皇太子と皇女、そしてこの国の公爵家を迎え、夕食会を始めようとしていました。ではこの宿に泊まっていた客たちはどうなったのでしょうか? するとキャンベル国王の指示で、宮殿でちょっとしたディナーを用意しておくので、そこに食べに来てはとなったのです。
宿泊客はビックリですが、またとない機会だと、全員、宮殿へ向かいました。おかげで私達は食堂を貸し切りにできたのです。そして夕食をいただきながら、セシリオからこんな話を聞くことになりました。
「あの大型犬は、わたしと共に川に飛び込む形になりましたが、自力で泳いで川岸に向かったところを確保されています。王都警備隊では野犬の確保をすることもあり、ケージ(檻)の用意があったので、そこに入れた上で、最寄りの屯所に運ばれました」
ちなみに私があの場で脱いだワンピースも回収されているとこの時、聞くことになったのですが……。
あの場ではもう無我夢中でした。
ですが私、花火を見に来ている大勢の前で下着姿になったのです。裸ではありません。ですが随分と破廉恥なことをしてしまったと……恥ずかしくなります。
ですがあれはなかったことにできません。もう忘れるしかないですね。
ひとまず私のワンピースは回収され、そしてこんな実験が行われたと言うのです。
「あの場には沢山の人がいましたが、なぜ大型犬はあそこまで勢いよく、シェリーヌ公爵令嬢に襲い掛かったのでしょうか? その理由として考えられるのは、串焼きのタレです。シェリーヌ公爵令嬢のワンピースの背中には、食欲をそそられる匂いのタレが、べったりついていました」
ただセリア大橋には多くの人がいて、花火を観覧していたのです。そこをかき分け、タレを目指したのは……よほどお腹が空いていることになります。そこで確保した犬に餌を与えたのです。ところが……。
「空腹の状態であの大型犬は川に落ち、泳いで体力も消耗したはずです。もう出された餌に飛びつくかと思ったのですが……。無反応でした」
「それはつまり、空腹ではなかった、ということですか?」
私が尋ねると、それを確かめるため、いろいろと実験をしたのだとセシリオは言います。すなわち、様々な餌を用意し、食べないかどうか確認したそうです。ですがその場に座ったまま、鼻をひくひくさせたり、チラリと見たりしても、餌のそばに行くことはありません。当然ですが、食べることもありませんでした。
空腹ではなかったと結論つけようとした時、回収した私のワンピースと、買い集めることができた串焼きが持ち込まれたのですが……。
その瞬間、ケージの中にいた大型犬が落ち着かなくなります。
そこで串焼きを一本ずつ、食べないかと試したところ。
ケージの中で座っていたのですが、串焼きを載せたお皿をケージの外へ置くと、近づいて来たのです。近づき、匂いを嗅ぎ、でもプイと向こうを向いてしまう。そこで別の串焼きに交換すると、同じように匂いを嗅ぎ、皿のそばから離れます。また別の串焼きに代えて……。
手に入ったすべてで試したところ、串焼きのそばまできて、匂いを嗅ぎます。ですが食べることはありません。
最後に、私のワンピースを持った王都警備隊の隊員がケージに近づくと、犬の様子が一変しました。鼻をひくひくさせ、隊員の方へ近づこうと、格子の隙間に顔を突っ込もうとしたのです。
でも格子の隙間から顔を出すことができないと分かると、その格子に噛みつき始めました。
これはあきらかに、ワンピースについている串焼きのタレに反応していると分かります。
人間でも、沢山ある串焼きの中で、お気に入りの串焼きがあると思うのです。同じようにこの大型犬も、グルメであり、私の背中に当たった串焼きが、好みの味のものだったのでしょうか?
「その大型犬の犬種を確認したところ、警備犬としても活用されているものでした。そのことから、一つの可能性が浮上したのです」
お読みいただき、ありがとうございます。
【お知らせ】
『転生したらモブだった!異世界で恋愛相談カフェを始めました』
https://ncode.syosetu.com/n2871it/
新章スタートしました。
本作もお楽しみいただいている読者様がいましたら、お待たせいたしました!
ページ下部にイラストリンクバナーがございます。
そちらからどうぞ!