すごいわねぇ。
この世界で目覚めて三年。
この三年、あっという間に過ぎたのかというと、そんなことはないのよ。ようやく三年経ったのね……と感じていたの。これはね、分かるかしら。この世界に来る前は、一年が経つのが早くて、早くて「あらやだわ、また一年経っちゃった! 年を取っちゃうわねぇ。皺も増えちゃうわねぇ」なんて思っていたのです。
でも十五歳という年齢でこの世界で目覚めてからは、違います。この「まだ一年経たないのね」という感覚を、再び味わえるなんて……。孫のおかげです。
しみじみそんなことを思いながら、この三年間。お世話になった制服に、袖を通します。泣いても笑っても、これが制服を着る最後です。
この卒業式、女学校とジョナサンが通う学園では、開始時間が違っています。これは年齢の近い子供を持つ、親御さんへの配慮からです。
女学校の卒業式は午前中に行われます。終わったら屋敷へ戻り、プロム(卒業舞踏会)に出席するため、ドレスへ着替えです。学園に通う男子たちは、午後から卒業式。終わったらそのままプロムに出席となります。
そう、プロムは女学校と学園の卒業生が参加する、合同開催のイベントです。
このプロムって、素敵ですよね。生前、アメリカの映画を観て、このプロムの存在を知りました。自分が学生だった時に、こんなイベントはありませんでした。よって憧れのイベントです。そのプロムに自分が参加できるのですから。もう楽しみでなりません!
卒業式はつつがなく終わり、屋敷へ戻ると、早速お着替えです。
オフショルダーという、肩が出たドレスを着ることにしましたが、これは生前、ミニスカートを初めて履いた時ぐらい、ドキドキしました。こちらの世界に来てから、舞踏会には、何度も足を運んでいます。素晴らしいドレスを沢山着ていますが、肩を全部見せる勇気はありませんでした。なにせ姿は十八歳でも、中身はおばあちゃんですからね。
それでもせっかくのプロム。ここは一発奮起して、肩が出たドレスを選びました。
綺麗なシルクのドレスで、桃色の薔薇がプリントされています。スカートはたっぷりのチュールで、ボリュームも満点。そこに模造宝石というものが散りばめられています。キラッキラッと輝いて、本物の宝石より、煌めいているように思えてしまいました。
金髪の髪は綺麗に、生前の世界でいう夜会巻きをして、髪飾りで留めます。ドレスとお揃いの薔薇の髪飾りを。
ルビーのネックレスとイヤリングもつけ、頬紅と口紅を薄く引き、真っ白なオペラグローブをつけたら、完成です。
姿見に映った自分を見たら……涙が出そうになってしまいます。
この世界に来る前の、病院で過ごした自分の姿を思い出すと、今とは本当に別人です。これはもう、この小説を書いてくれた孫に、大感謝ですね。何よりもその小説を棺桶にいれてくれて、心から「ありがとう」と思います。小さい文字を読むのは大変ですから、小説の世界を体験できたのは、最高です。
そんなことを思いながら、屋敷を出て、プロムが行われるグランドホールへ、馬車で向かうことにしました。
グランドホールは屋敷から馬車で20分程。問題なくその敷地には着いたのですが……。
エントランスはプロムに参加する馬車で大渋滞!
思いがけず、エントランスホールに降り立つまで、時間がかかってしまいました。それでもなんとか馬車を降り、エントランスホールを抜け、長い廊下を進み、ようやく会場となる大広間に着くと……。
合同開催で、お金をかけただけありますね。
生花やバルーンがあちこちに飾られ、校章のついた旗も天井から吊るされ、実に華やかな雰囲気に満ちています。宮殿での舞踏会にも招かれる、オーケストラが待機していました。軽食は一流のシェフ、スイーツは王室御用達のお店のパティシエが、手掛けているんですって!
すごいわねぇ。
「あ、シェリーヌ嬢!」