原因は●●
「違います!」とソフィーは否定し、こんなことを言い出しました。
「お兄様は気丈に振る舞っていましたが、剣が岩に挟まり、身動きがきかなくなった時。動転していたそうです。落ち着いていれば、ベルトは自力でも外せたかもしれないのに、パニックになり、うまく外せなかったと。あの場にシェリーヌ公爵令嬢が現れたことで、落ち着きを取り戻すことができたそうです」
つまり令嬢が川に自ら飛び込み、自分のことを助けようとしている。
そこで動揺している場合ではないと、自身に喝を入れることができたというのです。
「シェリーヌ公爵令嬢は、お兄様の命の恩人です。それにお兄様の名誉も守ってくださいました。もしシェリーヌ公爵令嬢がそばにいなければ、パニックになったみっともない姿を晒す可能性だってあったのですから」
セシリオがそんな風に慌てる姿は想像できませんが、ここまで感謝してくださっているのです。この好意は有難く受け取った方がいいと思えました。
「少しでも役立てたのなら、良かったと思います」
私がそう答えたところで、お医者さんが部屋に入ってきました。
なんと彼は宮廷医です。わざわざこの町宿まで来てくださったのです。しかも一階のロビーで待機してくれたと言うのですから……! ビックリです。
宮廷医は私の様子を確認しながら、そして女性の騎士がソフィーに報告するのを、私も何気に聞かせてもらいました。
女性の騎士の名前はハーモニー。ソフィー専属の護衛騎士で、通常は入浴やレストルームのお供をするそうです。今回の騒動を受け、この町宿に駆け付け、男性騎士の代わりにいろいろ動いてくれていました。
そのハーモニーの報告によると、セシリオが私を抱きかかえ、この町宿まで連れてきてくれたというのです。まさか皇太子であるセシリオにそんなことをさせていたなんて! いろいろな意味で驚愕しました。
宿に着くと、セシリオは別室に案内され、そして彼は意識があったので、すぐに温かい湯船につかりました。そして体温が落ち着くと、宿が手配してくれた服に着替え、既に事件現場の検証を始めているというのです。
ただ、私が目を覚ましたことを伝えたので、間もなく戻って来るとのこと。恐らくそこで検証結果を聞くことができると思うのですが……。
とはいえ犯人は大型犬であることは分かっています。その大型犬が私めがけて突進してきたのは……タレですね。タレ! 串焼きについていた、前世で言うなら焼き肉のタレのような濃厚で食欲をそそる匂い。あの匂いに惹かれ、そして私のワンピースの背中には、そのタレがべったりついていましたから……。
犬はまっしぐらで、私に飛びつこうとしたのだと思います。
セシリオは、串焼きが私の背中に当たるのを阻止できなかったことを、悔やんでいました。そして今回、突然、大型犬が現れたのです。リベンジも兼ね、頑張ってくださったのだと思います。つまり私を庇い、ご自身が犬と共に川に落ちたのです。
事件……というか事故の原因は明白です。調べたところで、あの大型犬は謝罪してくれることもないでしょう。というかあの大型犬はどうなったのでしょうか?
そこで診察が終わり「問題ないです。体温も正常ですし、起きていただき、着替えをしていただいても構いません」とのこと。そこで着替えをすることになりました。するとハーモニーが「急ごしらえで用意したものですが、どちらもワンピースです」と、ソフィーと私に差し出してくれます。
「まあ、これは色違いのワンピースで、襟の形やこのくるみボタンもお揃いね! シェリーヌ公爵令嬢とペアコーデできるのは嬉しくなってしまいますわ」
ソフィーは淡い桜色のワンピース、私はバニラ色のワンピースに着替えました。
丁度着替えが終わったところで、セシリオとシャールが町宿へ戻ってきたようです。
ハーモニーに案内してもらい、そのままロビーへ向かいました。
階段を下りながらロビーが見えてくるとビックリです。






















































