花火大会に
シャールから返事が届きました。
既にセシリオとソフィーからシャールに連絡もいっていたようです。よって「セリア大橋からの観覧、楽しみにしています! 僕も水上花火、見て見たかったので」と書かれています。
こうして待ち合わせ場所となる絵本広場へと向かいました。
ここは絵本屋が沢山ある広場……というわけではありません。
絵本から飛び出してきたような、メルヘンな建物に囲まれた広場なのです。
お菓子の家のような建物、魔女の隠れ家のような建物、パステルカラーの外壁の建物などが立ち並び、子供達や観光客に大人気の広場。その中央にはからくり時計も設置され、待ち合わせ場所としても有名です。
お忍びでの観覧になりますので、我が家の護衛騎士を一名連れ、からくり時計の元へ向かいます。混んでいるかと思いきや、意外と空いています。それはここが打ち上げ花火の会場となる川から離れており、周辺のお店がこの時間はもう閉まっているからです。
「シェリーヌ公爵令嬢」と早速声をかけてくれたのは、シャール!
お忍びということで、シャールは白のチュニックに黒のスリムパンツと、訓練帰りの騎士見習いみたいです。そう、騎士見習いと思えるぐらい、シャールの体型はあのひ弱な感じから一転していました。きっと剣術の訓練を重ね、体のあちこちに筋肉がついてきたのでしょうね。
それにね、お忍びなのでシャールも護衛を一人つけていますが、自身もいざとなったら剣を振るうつもりなのでしょう。腰に剣を帯びています。勿論、許可証を取った上での帯剣です。
何はともあれ、昨晩の舞踏会では冒頭以降、話すことなく、今、再会です。
よってお互いに何があったのか、報告しあうことになりました。
「えええ、クランベリージュースをかけられたのですか!? それであの素敵なドレスは……」
「そう、そのドレス、セシリオ殿下が宮殿内のクリーニングに出してくださって。明日には屋敷へ届けてくださるそうなの。でもクランベリージュースは色が濃いですからね……。きっとシミとなってしまうと思うの。仕方ないわ。私が着てそのまま屋敷へ戻っても、あちこちほつれている可能性もありましたからね」
「そんなことはないと思います! アップルトン侯爵令嬢は……ひどいですね。確かに生徒会長をされていましたし、有名な方でした。それなのにそんな……」
シャールが表情を曇らせた時です。
「お待たせしました!」
可愛らしいこの声は、ソフィーと思ってその姿を見て思わず頬が緩んでしまいます。
ソフィーはアイスブルーのサラサラの髪をおさげの三つ編みにして、クルンと輪っか状にし、リボンで留めています。さらに町娘が着ていそうなスモークブルーのワンピースを着ているのです。
なんて可愛いのでしょうか!
そのソフィーの後ろにいるセシリオは、パールグレーのシャツに濃いグレーのスリムパンツにブーツ。シャール同様、腰に剣を帯びています。
こちらは……見習いではないですね。正式な騎士に叙任された貴公子に見えました。
上衣がなく、シャツ一枚ですと、体型が嫌でも分かってしまいますが、セシリオはどうやらかなり鍛えているようですよ。エドマンド程ではないのです。一見するとスリムですし。これはほら、なんとかマッチョというんですよ。なんでしたっけ? スリムマッチョですか? とにかくスリムなのに筋肉はちゃんとある殿方、セシリオはそれでした。
合流したセシリオとソフィーも護衛の騎士を一人ずつ連れています。彼らは前後で私達をサンドするようにして歩き出しました。そして歩き出した私たちは……自然とこのペアになっていたのです。
ソフィーとシャール、セシリオと私がそれぞれ並んで歩いていました。
私としては昨晩、ソフィーから冒険物語が好きだという話を聞いています。それはぜひシャールに話してもらいたいと思っていました。勿論、明日、お茶会をする予定だと聞いています。そこで話すのでもいいですが、せっかくなら、ねぇ。
こう見えてね、私、前世で一度、お見合いを取り持ったことがあるんですよ。私の親族の花屋のお嬢さんのことを、クリーニング屋の息子さんが気になっているという話を聞いたの。そのクリーニング屋さんは当時商店街に新しくできたばかりで、そこまで知り合いはいなかったのよ。でも商店街ですから。しかもクリーニング屋さん。知り合いはすぐに増えると思ったのですが……。
親族の花屋さんですから。ここは私が一肌脱ぎましょうってね!
つまりどこか私は、昭和の世話焼きおばさんの気質も残っているということです。だからね、シャールとソフィーには、うまくいって欲しいわって、つい思ってしまうわけですよ。ですからこうやって目の前でシャールとソフィーが並んで歩き出し、エスコートしている様子を見ると……。