おかんむり
なんだか孫と毎日ラジオ体操しているみたいで、不思議です。
孫は四人いましたけど、男の子は一人だけ。でもあの子は受験勉強があるからと、病院にはあまり来ることがなかったのです。その代わりで、手紙は何度かくれました。「ばあちゃんは、スマホで送られたメッセージを見るより、手書きの手紙の方が、昔の人だから嬉しいだろう?」って。
実際、そうなのです。
スマホも、頑張って持っていましたけれど、操作を難しく感じてしまい、苦手でした。あんな小さな画面で若い子は……すごいわね。
つい、別なことを考えてしまいました。
こうして孫のようなエドマンドとラジオ体操をしていたら、なぜか見習い騎士の、まだ十歳になったような子たちまで、顔をだすようになりました。
なんだか一気に孫が増え、囲まれているようで、嬉しくなります。
でもね、そうしたら……。
「ミーチェ、君は宮殿の騎士訓練所で、一体何をやっているの? 騎士見習いの若い子に囲まれ、しかも……団長の息子もいるというじゃないか」
またも王子様が、おかんむりになってしまいました。困った王子様です。説明するしかないですね
「殿下、その件ですが、私達は体操を、みんなでしているだけです。殿下は私に太ったと、指摘されましたよね?」
「な、そんな、レディに太ったなんて指摘、わたしがするはずがない!」
遠回しにジョナサンは、私が太ったことを指摘していたと思います。でも確かにそうですね。直接的に「太った!」とは、指摘していませんでした。
「殿下、大変失礼しました。私の勘違いです。ともかく最近、食べ過ぎたようなので、体重を減らすため、体操をしているだけですよ」
「体操ごときで体重は、減らないのでは? ……それならわたしと剣術の訓練を……」
「まさか。貴婦人を目指す身で、剣術はさすがに……」
王子様は本当に、突拍子もないことを言われます。でも確かに体操だけでは、体重は減らないでしょう。どうしましょうか? エドマンドに相談してみようかしらね。
そうしているうちに、先に私が降りる、女学校のエントランスに着きました。
するとそこには、ヒロインがアイボリーの学校指定のコートを着て、こちらへと手を振っています。
「殿下ぁ~」
貴婦人らしからぬはしゃぎようで、驚いてしまいます。
早速、標識のような案内板が出て、言葉遣いを注意していじめるようにと、指示が出ました。ここは注意をしたくもなりますが、触らぬ神に祟りなしです。
ジョナサンは、ヒロインに熱烈に呼ばれているので、私と一緒に馬車を降りました。そこで私は彼に「殿下。では私は先に、教室へ参ります。ごきげんよう」と挨拶をして移動開始です。
「ミーチェ!」
「はい、殿下」
「その、運動したいなら、剣術倶楽部に来てくれれば、運動を教えます」
「? 分かりました。検討いたします」
「殿下ぁ~、私、運動したいです~」
ヒロインがジョナサンに話しかけ始めたので、素早く歩き出しました。
運動する必要がないぐらい、ヒロインの体型は、完璧と思います。でも健康のために運動するのは、いいことでしょう。
このような感じで攻略対象とは、思わぬ形で、接点はできてしまいました。その後もエドマンドとは、運動を続けています。ブラックからは、定期的に、こんないじめをしている子がいると、律儀に連絡がきていました。ブラックは、あの熱血教師と二人三脚で、いじめをしている殿方を成敗しているのです。暴力ではなく、話し合いで。
時々、その話し合いをしても、いじめを続けるとんでもない殿方もいました。そこはもう、シェリーヌ公爵家の家門を、遺憾なく発動です。舞踏会で令嬢から一切相手にされなかったいじめっ子は、ショックで一日寝込み、でも次に登校した時は、もういじめをやらなくなりました。効果てきめんです。
そんなことをしているうちに月日は流れ、卒業式の朝を迎えました。