実に痛快
「なるほど。なんだか肩身が狭い思いをさせてしまい、申し訳なかったな。今後は気にせず、気軽に宮殿や王宮にも顔を出すといい」
国王陛下がそんな風に言ってくださいますが。
王宮は主に、王族の皆様のプライベート空間ですからね。
そこに顔を出すことはないと思いますが、宮殿は、議会もあれば、サロンもあり、舞踏会や晩餐会も行われますから。顔を出す機会はきっとあるでしょう。
「はい、ありがとうございます」
「ところでシャールとは仲が良かったようだが、今回、ソフィー皇女の相手に指名してしまったが、大丈夫だったか?」
「? それについては何とも。私は友人として、シャールが選ばれたことを誉れに思いますが……。シャール自身がどう感じているかは、本人に聞きませんと」
至極まっとうな回答をしたつもりです。
ですが国王陛下は楽しそうに笑っています。
「やはり君はジョナサンには勿体ない方だった。そんな風にわたしに意見を言えるところも、実に痛快だ」
褒めていただけていますよね? けなされてはいませんよね?
そんなことを思っているうちに、曲が終わりました。
国王陛下とのダンス。
緊張するかと思いましたが、そんなことはありませんでした。
周囲の目を気にしていたはずですが、直前にセシリオを見つけ、意識がそちらへ持っていかれたのも、良かったのかもしれません。
「ありがとう、シェリーヌ公爵令嬢」
「こちらこそ、ありがとうございます、国王陛下」
こうして今度こそ、広間の中央を離れ、国王陛下のエスコートに御礼を言ったところで。
来ましたよ、また案内標識が!
『キャンベル国王陛下とのダンスが成功しました。キャンベル国王陛下の好感度が……』
速攻、「×」ボタンでクローズ……。
そう思ったら、ドキッとしてしまいます。
私が宙に手を差し出したからでしょうか。
誰かがそばに来たと思ったら、それはセシリオ。
「×」に触れようとする私の手をとっていました。
「四曲も連続でダンスされてはお疲れでしょう。お飲み物でもいかがですか?」
これはいい声掛けでした。
セシリオと共に、軽食や飲み物が用意されている部屋に向かえば、どの令息も私に声をかけることはできません。なにせ友好国の皇太子ですからね、そばにいるのが。外交か社交をしている皇太子と私の邪魔なんて、できるわけがないのです。
実際はただのおしゃべりをするはず。ですが、公爵家の令嬢と皇太子となれば、何か高尚な会話をしている……そう周囲は思ってくださることでしょう。
下品ですが「しめ、しめ」とばかりにニンマリして「お願いします」とそのままエスコートしていただくことにしました。
私をエスコートして歩き出すと、セシリオはこんなことを尋ねます。
「シェリーヌ公爵令嬢は、甘い物はお好きですか?」
「それは大好きですよ。今の季節ですと、マロンのタルトやマロンのパウンドケーキ、マロンのマカロンとマロン尽くしですよね。どれも大好きです」
するとセシリオはなんだか嬉しそうに笑っています。
もしかするとセシリオもマロン好きなのでしょうか?
「でもマロンはイガが厄介ですよね」
イガと聞くと思い出すことがあります。
それはそう、私が子どもの頃、同級生だった都会から来た「坊ちゃん」!
一人洋装で、鼻水を垂らすことなく、頭も良くて。
でも知らないんですよ、自然の恵みの楽しみ方を。
例えば栗。
田舎の子はね、みんなあのイガの剥き方を知っていました。でも……。
「イガはね、簡単に剥くことができるんです。両足の靴のつま先で、栗のイガを押さえるようにグッと少し力を入れると、パカッて開いてくれるんですよ。田舎の子ならみんな、この方法を知っています。でも都会の子はそれを知らなくて……。いきなりあのイガのついた栗を手で掴もうとして『痛いっ!』ってなってね。それでみんなに笑われちゃっ……」
そこでハッとします。
私ったらどうしたことでしょう!
前世の話をうっかりしてしまいました。
どうして話してしまったのかしら。
そうよ、そう。
貴族の子どもは栗のイガに触れることなんてありません。
イガがとれた、食べられる状態の、綺麗なマロンと普通はご対面です。
それなのにセシリオが、イガのことなんて持ち出すから!
私は慌ててしまいますが、セシリオは落ち着いた様子で応じています。
「そうですね。イガも慣れればなんてことはないのでしょうが。あのイガは凶器になると思います。さるかに合戦で、栗は囲炉裏ではじけてサルを苦しめましたが、イガで攻撃でも良かったと思いますよ」
「それは……そうですね。屋根裏に隠れ、サルが部屋に戻ったら、イガグリ総攻撃でも良かったと思います」
「ふふ。もうそれでサルは降参ですね」
何でしょうか。
セシリオは皇太子ですよ!
なんてフレンドリーなのでしょうか。
楽しくて、思いっきりさるかに合戦の話で盛り上がりました。おかげで距離が縮まったと言いますが、話しやすくなったのです。ですから軽食部屋に到着すると……。