急に大人になってしまった
馬車に揺られ、宮殿のエントランスに降り立ち、ビックリ!
だってそこには羊羹色の王都警備隊の隊服姿のポマードがいるんですから。
「シ、シェリーヌ嬢……!」
ポマードが泣きそうな顔をしているので、ビックリしちゃいます。
「どうしたのですか!? 誰かに意地悪でもされたのですか!?」
泣きそうなポマードの手を取り、周囲に目を走らせます。
ポマードをいじめるなんて、大した度胸だわ。
母ちゃんを怒らせたら、許さないんだからね!
正太郎を守るために鬼になった時同様、怖い顔をしていると。
「シェリーヌ嬢、誰も意地悪なんてしてないよ。自分はただ……」
ポマードが真っ赤なトマトになっています。
「どうしたのですか、ポマード。もしや素敵なご令嬢を見かけて……」「違う!」
ゆっくりポマードは私が掴んでいる手を自身の手ではずし、なんだか深呼吸をしています。
「シェリーヌ嬢がすごく素敵でさ。自分とダンス、してもらいたかったなぁって」
「まあ、ポマード! ダンスなんていつでも付き合いますよ。今日はね、任務があるのでしょう。でもまた舞踏会シーズンになったら、いつでも踊ってあげますから。今日は頑張りなさい」
するとポマードは自身の髪をかきあげ「あ~」と小さく叫び「そうじゃなくて、今日なんだよぉぉ」と呟き、でも深呼吸をすると。
「そうだな。また舞踏会で。ではシェリーヌ嬢、エントランスホールへお進みください。立ち止まると混雑になりますから」
急に王都警備隊の一人みたいな態度になるのだから、ポマードってば。
でも確かに、次から次へと馬車が止まり、招待客が降りて来ています。
ここでぐずぐずしては邪魔になりますからね。
両親と共に、エントランスホールへ向かいます。
エントランスホールに着くと、そこにレオンハイム公爵夫妻とシャールが待っていてくれました。シャールはいつも黒なのに、今日は濃紺のテールコートで、前髪の分け目も変えています。なんだか気合が入っていますね!
「シェリーヌ公爵令嬢。こんばんは。素敵なドレスですね。とてもよくお似合いです」
シャンとして挨拶をしてくれるシャールにビックリ。
凛々しい様子に、レオンハイム公爵も満足そうです。
なんだか急に大人になってしまったシャールに驚きつつ、建国祭記念舞踏会の会場となる『始まりの間』に到着しました。この広間で、初代国王が戴冠式を行ったと聞いています。由緒正しい広間には、美しいドレスに身を包む淑女、テールコートでビシッと決めた紳士で溢れていました。
そこに女学校時代のお友達もいて、久しぶりの再会に挨拶をしていると、こんな風に耳打ちをされます。
「シェリーヌ公爵令嬢、同伴されている方はどなたですの!? もしやシェリーヌ公爵令嬢の未来の婚約者ですか!?」
孫のようなシャールが婚約者!
こんなに若い婚約者は、ジョナサンでもう懲り懲りですよ。
まあ、シャールは悪い子ではないですからね。嫌いではないです。ですが、恋愛対象になりますかというと……なるわけがありません!
「まさか、私は王太子殿下と婚約破棄をしたような令嬢ですよ。そんなもう婚約なんて!」
「何をおっしゃるんですか、シェリーヌ公爵令嬢! プロム(卒業舞踏会)での武勇伝は王都で知らない者はいません。皆様、遠慮されているだけです。婚約破棄から一年したら、縁談話を持ち込もうと考えている貴族の令息とそのご両親は……沢山いるのですよ」
これには「えええええ、そうなのですか!」と思わず声が出てしまいます。
だって、そうでしょう。
私は恋愛が目的ではないのですから。そんな縁談話を持ち込まれても。
でも……。
どうなのでしょうかね。
いつまでも独身でいることが許されないのでしょうか。
うーん、難しいですよ。
何せ中身はおばあちゃんですからね。見た目の年相応のお相手との結婚なんて。
こうなるとうんと年上の……。
そこでなぜかまさにファンファーレと共に入場してきた国王陛下と目が合います。
もしかして。