もう、シャールったら!
騎士団長が動き、パレードの隊列が動き出しました。
オープン馬車に乗った国王陛下が、沿道にいる人々に向け、笑顔で手を振っていました。パレードに合わせ、被られている王冠の黄金が、晴天の陽射しの中、キラキラと輝いています。大粒のルビーが埋め込まれ、それにも目が奪われてしまいますね。
国王陛下の馬車の後には、王族の皆様が続きますが、それはカップルばかり。ご夫婦だったり、婚約者がいたりで、国王陛下だけがお一人です。これはちょっと可哀そうになってしまいますね。とても立派な方なのですよ、国王陛下は。まだお若いのですし、再婚されれば……。
こんな時に!
突然、案内標識が出現しました。
心臓に悪いですし、パレードの最中なのに!
睨むようにして、内容を確認すると……。
『キャンベル国王とのドキドキなイベントに参加しますか?』
まあ、この乙女ゲームときたら!
私が国王陛下の再婚を考えていたら、待っていましたばかりに、こんなメッセージを出すなんて。恐ろしいですね。
迷わず「×」ボタンを押したところ。
視線を感じます。
「……!」
セシリオが銀色の瞳でじっとこちらを見ています。
そう、私が「×」ボタンを押したその手を見ているように感じ、なんだかドキドキしてしまいました。
大丈夫よ、この案内標識は私にしか見えないのだから。
これまでだって、攻略対象と言われるエドマンド、ポマード、シャール、キーファース先生、国王陛下にだって、この案内標識は見えなかったんですからね!
「シェリーヌ公爵令嬢」
隣に座るシャールが押し殺した声で私の名前を呼びます。
「何ですか、シャール様」
声を潜めて尋ねると、シャールは……。
「セシリオ皇太子が気になるのですか?」
「え!?」
「今、じっと見つめ合っていましたよね……」
もう、シャールったら!
偶然、目が合っただけなのに。
「違いますよ。たまたま目が合っただけですよ」
「本当ですか?」
「本当です!」
ようやくシャールは安心した表情になりました。
そこで今度はシャールと二人で「「あっ」」と小さく叫ぶことになります。
だって!
次々とパレードを進む王族の馬車を先導する騎士の一人……と思ったら、エドマンドだったのですから!
もうね、エドマンド、見習い騎士になんて見えませんよ。
儀礼用の赤の隊服も完璧に着こなしています。
いつもみたいに暑いからと、シャツの胸元が見えていたり、腕をまくりあげていたりなんてことありません。
これはね、我が子の晴れ舞台を見た心境よ。ガキ大将にいじめられた正太郎が、運動会のリレーでアンカーになった時。本当にもう感動しちゃったんだから! あの時の気持ちで、エドマンドのことを見てしまいます。
パレードは本当に。
とても素晴らしいものでした。
パレードの観覧が終わると、お茶会の会場へ案内されますが、それはもう大忙し!
何せ諸外国の王侯貴族の皆さんが勢揃いしていますから、外交・社交ですよ。
ここではシャールとは別れ、両親と共に本当にいろいろな方に挨拶をしました。というのも私は元王太子の婚約者でしょう。おかげで無駄に知り合いも多いから……。
この後の晩餐会にも両親と参加し、こうして建国祭初日は無事終わりました。
◇
建国祭二日目。
この日はシャールと私と双方の家族揃って、演劇を観に行きました。
毎年恒例の、建国の歴史を描いた一大スペクタクルで、前世で言うと、いわゆるコロッセウムみたいな場所で観劇できるのです。つまり海での戦いを演じる時は、舞台に水が引かれ、船も登場するんですよ。劇のおおまかなストーリーは、毎年同じ。でもこの演出が素晴らしくて、みんな毎年観てしまうんですよね。
夜に舞踏会がありますが、日中はこの演劇で時間が潰れます。何せ上演時間五時間、休憩時間も二回に分けて一時間もあるのですから!
上演が終わると、急いで屋敷へ戻り、着替えとなります。
使用人の多くは今日もお休みなんですが、それでも建国祭記念舞踏会のために、ドレスへの着替えは必要で。一部の使用人には頑張っていただくことになります。ですが勿論、お給金ははずみますよ。
こうして大変素敵なイブニングドレスに着替えることができました。
この世界に転生して、私の瞳は碧い色をしています。その色に合わせ、この建国祭のためにオーダーメイドしたドレスは、スカートは三段フリルで、水色のグラデーションになっています。
バックリボンは濃紺で、ドレープを描き、大変優雅なんですよ。しかもね、背中が結構大きく開いていて、これにはなんだかドキドキしちゃいます。でも姿見で確認しないと、自分では分かりませんからね。ここは勢いで着ちゃいましたよ。
身頃には繊細なレースと刺繍が重ねられ、もうこれはため息ものです。全部ね、手作業なんですから。すごいと思うわ。
自画自賛したくなるブロンドは綺麗にアップにしてもらって、銀細工の髪飾りで留めて完成です。
エスコートしてくれるシャールとは、宮殿の正門のエントランスホールで待ち合わせをしています。エントランスまではそれぞれの家族と共に、向かうことになっていました。お父様は黒のテールコート、お母様は濃紺にパールが煌めくドレスと、両親も共に決まっています。
こうして馬車に揺られ、宮殿のエントランスに降り立ち、ビックリ!