受験が終わるとぜーんぶ忘れました!
「シェリーヌ公爵令嬢、あ、あれは……」
シャールが絶句していますが、私だってビックリです。
だって国王陛下と話をされているんですよ。
しかも異国の方なのですから。
「おや、シェリーヌ公爵令嬢。君も来てくれたのだね。紹介しよう」
不意に国王陛下から声をかけられ、ビックリです。
「シャール、君も」
国王陛下にとって、シャールは可愛い甥っ子。私と一緒にいるので、そのまま招かれ……。
私とシャールは、セシリオと向き合うことになりました。
セシリオは先程会った時、フード付きのローブを着ていましたが、今は違います。
シルバーホワイトのモーニングコート姿です。
タイはシルバーでパールがついた銀細工が飾られています。ベストはシルバーとホワイトのストライプ。シャツは白に近いミストブルーです。
さっきはロングローブを着ていたので、まさかその下がこんなに眩しい程の姿だったなんて! 気がつきませんでしたし、ビックリです。
「こちら、セシリオ・フィル・ターナー。ターナー帝国の皇太子だ。二人とは同い年だね。そして彼女はソフィー・エリザベス・ターナー皇女。君たちの三歳下だ」
予想はしていましたが。まさかセシリオは皇太子!
しかも妹さんと二人で建国祭に参加していたなんて。
妹さん……ソフィー皇女。
ソフィーはセシリオと同じですね。アイスブルーのサラサラの髪をされています。瞳は銀色で、肌も透き通るような美しさ。三歳年下とは思えない程、大人びています。
セシリオとソフィーの母国であるターナー帝国は、ここからうんと北東に行った場所にある帝国で、国土は広いのですが、山脈が多く、平地が少ないのですよね。よって国力はそこまでではないのですが、そんな土地だからこそ、諸外国からの侵略が少ないのです。何せターナー帝国の地を得ても、特に得るものがないのですから。
おかげでターナー帝国は平和で、歴史も長く、どの国とも仲が良いのです。
そんな国ですから、良くも悪くも話題にのぼることは少なく、大変失礼な話ですが、皇太子や皇女のお名前も……忘れていました。王太子の婚約者ですから、一時はありとあらゆる国の情報をインプットしていたのですよ。でも、もう婚約者ではないですからね。いろいろ覚えたことも忘れています。
これってきっと、受験生が、受験が終わるとぜーんぶ忘れました!という感覚に近いのじゃないかしらねぇ。私は前世では小学校までしか卒業していませんから、受験のことは正太郎でしか分かりませんが。
何はともあれ。本当にビックリですよ。
セシリオが皇太子だというのは!
でもなぜ、皇太子であるセシリオがあの噴水広場でウロウロされていたのでしょうか?
気になりますが、今は挨拶が先です。
セシリオ、ソフィーが挨拶をし、シャールと私も順番に挨拶をすることになりました。すると私の両親やレオンハイム公爵夫妻も来て、挨拶をしていると……。
パレードの開始時刻になりました。
観覧席の前から、パレードはスタートになります。
国王陛下を始めとした王族の皆様は、次々に馬車へ乗り込みました。観覧席にはセシリオなどの来賓や国内の有力貴族が座り、パレードの開始を今か、今かと待つことになります。
パレードの先頭は王立騎士団の団長です。
白馬に乗った団長は、御年三十代くらいでしょうか。
背筋がピンと伸び、凛々しく、男前に思えます。
儀礼用の赤の隊服もよく似合っていました。
その後ろには国旗、王旗を手にした副団長、上級指揮官が続きます。
さらに先導と護衛のための騎士数名がズラリと整列し、出発まで待機中です。
騎士達が乗る馬はすべて白馬で、目の前に「白馬に乗った王子様」が何人もいるみたいですよ。
ざわざわとしている中、ファンファーレが聞こえ、宰相がパレードの開始を伝えます。国歌も斉唱され、遂に角笛の合図と共に、パレードがスタートしました。
騎士団長が動き、パレードの隊列が動き出します。