懐かしいわねぇ。
「シャール様、なんてことをおっしゃるのですか! キ、キッスなんてしてませんよ」
「ですが僕が見た時、シェリーヌ公爵令嬢は、あのセシリオとかいう男と向き合い、キ、キスを……」
「シャール様!」
思わずシャールの両手を掴んでしまいます。そして「違いますから!」と訴え、私が予想したことを話すことになりました。
セシリオ本人に確認したわけではありません。
ですが彼は誰かに追いかけられていました。そして私のせいで足止めをくらい、ピンチになってしまったのです。あのカエデの木の下で、セシリオは一芝居打ったのではないでしょうか。
そう。
私とキッスをしているフリをしたのです。セシリオを追いかけていた何者かは、まさか彼がキッスをしているなんて思いません。彼らには建国祭に浮かれ、熱いキスを交わすカップルにしか見えなかったのでしょう。何よりも皆さん、キッスしているカップルを見つけたら、じーっと見たりしませんよね? 通常であれば、すぐに目を逸らすはずです。
こうしてセシリオは、一度は私のせいでピンチになりましたが、それを切り抜けることができたのではないかと思ったのですよ。
それをシャールに話すと、ようやくその泣きそうな顔が、落ち着いてくれました。
「そうだったのですね……。ですがとても心臓に悪いことでした。てっきりシェリーヌ公爵令嬢が……」
「もう、シャール様、本当に違いますからね!」
「はい。あ、僕、せっかく買った飲み物を……申し訳ないです、シェリーヌ公爵令嬢」
飲み物を買ったシャールは両手がふさがっていました。
でも私を助けようとセシリオに向かいましたからね。飲み物は……。
仕方ないです。
「気にしないでください」と言っているのに、慌てるシャールが可愛くてたまりません。
正太郎も高校生ぐらいになると、なんだかぶっきらぼうになっちゃたんですけど、あれは海水浴に行った時のことよ。親戚一同、お盆で集まって、みんなで海に行こうってなったんです。そうしたら私、軽い熱中症みたいになってしまって。すると正太郎ったら、青ざめて慌てて飲み物を買いに行ってくれたんです。でも慌て過ぎて、転んで飲み物が……。
あの時はもう十六歳だったのに、わんわん正太郎が泣いて「母ちゃん、ごめんよ」なんて言うから。「あんたこそ泣き過ぎて、水分なくなって熱中症になるわよ!」とコントみたいなことを言っていました。
懐かしいわねぇ。
「あ、シェリーヌ公爵令嬢、そろそろパレードの観覧席に移動した方がいいかもしれません」
シャールが時計台を見て、私の顔を見ます。
「そうね。行きましょうか」
私がそう答えると、シャールは急にキリッとして……。
行きとは違い、しっかりと私の手を取り、握りしめました。
「では行きましょう、シェリーヌ公爵令嬢!」
こうしてパレードの観覧席へと向かいました。
まだ時間的に余裕があるので、皆、着席せず、社交にいそしんでいます。
するとそこには、私の両親、レオンハイム公爵夫妻、キャンベル国王とその王族と多くの見知った顔が揃っています。これでも私、ジョナサンの婚約者をやっていたこがありますからね。王族の皆様は顔見知りです。
金髪碧眼の国王陛下は、レオンハイム公爵同様、立派な体躯をしています。白の毛皮がついた真紅のマントも、よく似合っていらっしゃいますね。
ですがその彼の頭を追い越すように、碧みを帯びた銀色……そう、アイスブルーの髪が見えました。この珍しい髪、さっき見ましたよ……。
「シェリーヌ公爵令嬢、あ、あれは……」





















































