一直線!
今日は建国祭ということで、リリーさんは侍女としてのお仕事はお休みです。それにこういう日は侍女や従者を連れ、ウロウロしている方が目立ってしまいます。そうするとスリに遭いやすいのです。
あちこちに警備隊の隊員や騎士もいますし、例年、建国祭ではスリくらいしか犯罪はありません。何せ何かやっても即逮捕ですから。スリはすられたことに気づかない人も多いので、どうしてもなくなりません。
よってシャールの手を握り締めた私は、目的の出店へ向け一直線ですよ。
もうね、建国祭の出店で食べるものは決まっていたのです。
まずはアツアツ焼き立てソーセージ!
ソーセージは自家製なので、屋台毎に味が全く異なります。毎年出店しているお店は間違いなく、いつも行列ができているのです。まずはそこに並ぶ。
次は、今が旬のキノコのキッシュ!
数種類のキノコを使ったキッシュ、これまた使うホワイトソースにより、味がガラリと変わります。キッシュで出店しているお店は、レストランが多いのです。よって有名レストランの出店で並ぶのが正解。いつもよりリーズナブルに旬の味わいが楽しめます。
最後はデザート、ブドウを使ったタルト!
ワイン用ではなく、スイーツ用に開発されたブドウは甘みが強く、ジューシーで風味もあるのです。そのブドウの甘みを生かすために、使われているカスタードクリームは甘みを抑えられています。タルトの生地はサクッと香ばしく。最高です。
順番に制覇していきます。
「うわっ!」
シャールがソーセージにかぶりつくと、肉汁が元気よく飛び出し、これには周りにいた人もビックリ! でも美味しさが伝わったようで、私達が買ったソーセージはどれかと尋ねられ、皆さん、新たな行列を作ります。
続くキノコのキッシュは……。
「このホワイトソース、なめらかで、とろりとして、くちどけが……」
シャールの頬が落ちそうですが、それは私も同じです。
「絶品ホワイトソースとキノコの相性が最高ですわね。キノコのシャキシャキ食感もたまらないわ」
何が感動かって言うとね、前世ではね、入れ歯をするようになってから、キノコが食べにくくて仕方なかったんですよ! 噛み切れないんです、繊維がある食べ物って。
もう一度ね、こうやってキノコを美味しくいただけるなんて、感動ですよ。
しみじみ孫に「ありがとう」です。
そういえば孫に送ったメッセージ、届いたかしらねぇ?
宮殿にね、使われていない井戸があって、そこで叫ぶと自分の想う人に気持ちが届くって迷信が伝わっていたのです。半信半疑で挑戦したんですけど……。
なんだか気の利いたことをね、言おうともしたんですよ。
でもいざ井戸に向け、叫ぼうとするとね、涙がこうね、ぶわーっと溢れちゃったの。孫だけじゃなくて、正太郎にだって、その奥さんにだって、隣のひふみさんにだって……もう一度会いたい人って、沢山いるでしょう。ですからね、あれがせいいっぱいだったのよ。
――『面白かったですよ。次はどのルートかしらね?』
孫が聞いていたら「もう、おばあちゃんったら! いいんだよ、好きなルート選んで!」って、笑っていそうよね。
「シェリーヌ公爵令嬢、もしかして熱くて火傷しましたか?」
「えっ?」
「涙目ですよ……」
シャールが心配そうな顔で、私を見つめています。
まあ、私ったらね、十八歳なのに。涙もろいわ。
ここはシャールの問いにのっかり、「舌を火傷しちゃったかもしれないわ」と答えると。シャールは「えっ!」と驚き、ダッシュで飲み物を買いに行ってくれました。
その後ろ姿を見送り、シャールにあんな瞬発力があったなんて、と思わず感動です。
ダッシュするシャールを見送ったばかりなのに。
今度は猛ダッシュでこちらへ駆けてくる男性がいます。
後ろを気にして、ローブのフードを目深にかぶり、それを手で押さえ、こちらへ駆けてきていました。避けようと思ったんですよ。そうしたら、なんと足元に何か果物の皮が落ちていて。それを踏んでしまったのです。
もう尻もち、すってんころりんよ!と思ったら!