ペアルック
それから一週間。
ついに建国祭当日です。
今日から三日間。
国全体がお祭りムードに包まれます。
その中心となるのが王都。
各国から訪れた王侯貴族達が観覧するパレード、建国祭記念舞踏会、最終日の記念花火大会。
この時ばかりは平民貴族関係なく、大賑わいです。
初日の目玉はパレード。
これはキャンベル国王他、王族の皆様を乗せたオープン馬車で、王都内の大通りを宮殿までパレードするというもの。沿道には大勢の人達が詰めかけます。
前世の記憶で思い出すパレードは……ケネディ大統領が狙撃されたあのパレードです。もうあれは衝撃的だったわ。海外の映像が初めて生放送で見られるってなったから、話題になっていたの。でもいざ蓋を開けたらまさかの大事件。
この乙女ゲームの世界には銃がないから、狙撃されることはないと思うのよ。それにポマード達、王都警備隊が本当に頑張っているから。
そう。パレードの通りに面した住人は、パレードの最中、家から出るように言われています。その代わり、専用の観覧席が用意されていました。そして家の前には一人ずつ、警備隊員が配備されるのですから。徹底されています。これで弓矢を使い、窓からパレードに参加している王族を狙うなんてこともできません。
ちなみに王族が参加するパレードですが。ジョナサンはあいにくの欠席。卒業と同時に、隣国のアカデミーに入学したジョナサンは、まさに今、試験期間です。隣国の王太子だからと忖度してくれるアカデミーではなく、ジョナサンは必死に勉強中。
なおヒロインのシカリアーナ・ララック子爵令嬢。いろいろあり、お叱りもたっぷり受けましたが、ジョナサンの新しい婚約者に収まっています。そして共にアカデミーに入学しているので、こちらもまた、死に物狂いで勉強をしていることでしょう。
ジョナサンもララック子爵令嬢も。アカデミーを卒業し、帰国する頃には、人として成長しているといいわよねぇ。
ということで。
シャールと共に、パレードに向かうことになっているのですが。
公爵家である我が家は勿論、シャールのレオンハイム公爵家も、観覧席が用意されていました。早めに行って場所取りする必要はないのですから、パレードの観覧前に、出店を見て回る約束をしていたのです。
こうして私は、秋晴れの空のような水色のドレスを着て、シャールと一緒に沢山の出店が集まる噴水広場にやって来ました。シャールはクリーム色のセットアップを着ています。シャールも私も、共に金糸で美しい刺繍が飾られ、並ぶとなんだか合わせたかのように見えました。つまりペアルック。
前世ではペアルックが一世を風靡した時代があったわね。当時、原宿を歩く若い子達がお揃いの服を着ている様子が新聞で紹介されていました。カップルだけではなく、女性同士が同じようなファッションで街を闊歩していたのよね。
シャールはこのペアルックなんだかとても嬉しいようで、大変ニコニコして私に手を差し出しましたが……。
「シェリーヌ公爵令嬢、これだけ人が多いと、これでははぐれてしまいます。……そ、その……手を……手を」
「これだと手をつながないと、迷子になっちゃいますよ。さあ、シャール、手を貸して頂戴。そう。しっかり握って。行きますよ」
「は、はいっ……！」
なんだかシャールの陶器のような肌が、真っ赤です。ですがここはもう混雑する前世のデパートを思い出し、しっかりシャールの手を握ります。休日のデパートは大混雑で、一度迷子になると大変！ 正太郎は男の子だから「なんで母ちゃんと手をつなぐんだよー」と嫌がりましたけどね。シャールは正太郎のようなことは言いません。ですからぎゅっと握りしめ、人混みをかき分けて行きます。
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