プロローグ
舞踏会シーズンが落ち着き、地方領へと多くの貴族が戻りましたが。
皆様が再び、秋真っ盛りの王都へ集結する日があります。
マロニエの木々が紅葉し、栗によく似た実をつけ始める頃。
国を挙げての一大イベントがあります。
それは……建国祭。
建国祭を一週間後に控えた今日、王都の中心部にあるレストランにエドマンド、ポマード、シャール、私が丸テーブルを囲み、ディナーを楽しんでいました。
「明日からは特別勤務だよ。建国祭が終わるまでの十日間は、交代勤務で王都の警備だ。自分もシェリーヌ嬢とパレードを見たかったのに……」
そう嘆くのは、王都警備隊という前世で言うならば警察組織のような国の機関に入隊したポマードです。ディナーのため、髪をオールバックにして、きっちりテールコートを着ているポマードに、昔の不良の面影はありません。キリッとして、警備隊の一員らしくなりました。
特に初夏のあの日。資産家老婦殺害事件の犯人をあげたことで、ポマードは異例の一階級昇進を果たしているのです。同期の中で、頭一つ分、抜きんでた形ですね。
そんなポマードですが、まだまだ若手の下っ端。建国祭が始まる前から、特別勤務となります。つまり次々と入国する各国の王侯貴族の安全のため、王都の治安活動に努めるのです。
つまり学生の頃のように、建国祭を楽しむことはできないのですね。
「はあ……それなら僕だって建国祭記念舞踏会でシェリーヌ公爵令嬢とダンスの一曲くらい踊りたかったよ。僕は一応まだ騎士見習いなのに。パレードの先導やら、要人の馬車の先導に駆り出されるとは、思わなかった……」
そう嘆くのは、騎士養成学校で騎士見習いをしているエドマンドです。今日もテールコートの下のシャツの襟は大きく開けられ、学生の頃よりさらに鍛えられた胸筋を披露しながら、盛大なため息をつきました。
エドマンドはてっきり、建国祭の期間、騎士養成学校は休みとなると思っていたのですが。建国祭は多くの人が集まり、何もかもで人手が足りません。騎士養成学校の騎士見習いなんて、いい働き手となります。実習の一環ということで、正騎士ではなくても問題がない、パレードの先導やら、要人の馬車の先導などを、手伝うことになったというわけです。
つまりポマード同様、建国祭を楽しむのは、無理なことでした。
「二人とも、安心してください。シェリーヌ公爵令嬢は、僕がしっかりパレードに案内し、舞踏会にもエスコートしますから」
このメンバーの中ではシャールだけが唯一、モラトリアム期間を許されていました。
すなわち、来年からは経営学を学ぶため、アカデミーへ入学します。ですがその入学するまでは、好きな物語を書くことが許され、そして剣術に励む日々を送っているのです。
アカデミーに入学するのは比較的簡単、ただ卒業するのは大変!
シャールは今、嵐の前の静けさなのです。
ですがシャールは勉強が得意で、最近は剣術の成果も出ているのでしょうか。いまだ金髪はおかっぱですが、もう女子には見えません。背筋もピンと伸び、俯くことが減り、胸をちゃんと張っているので、凛々しく見えるようになりました。
卒業舞踏会で、レオンハイム公爵の背に隠れるようにしていたのが、嘘のようです。
テールコートも優雅に着こなし、次期公爵となるべく、着実に成長しているように感じます。
「くそ、シャールだけ、パレードも舞踏会も! ズルいぞ!」
「抜け駆けはダメだからな、シャール。紳士同盟を結んだことを忘れてはいけない」
お読みいただき、ありがとうございます。
新章は新キャラも登場! 建国祭を舞台にいろいろな動きが……!
章ごとに完結する本作。ぜひお楽しみくださいませ~