一撃で仕留めなければならない
「今の問いに答えない限り、封筒をお渡しすることはできません。かつ問いの答えが間違っている場合も、お渡しすることはできません。そして封筒は厳重に管理し、盗まれないように保管してあります」
これにはタイドとしては歯軋りしたい思いです。まず、自分を誰だと思っているのか。私はあのタイド・ティント・メーなのに! 短剣を取り出し、脅して原稿を手に入れることも考えましたが、すぐに二階のカフェのことを思い出します。
脅すようなやり方では、テトに悲鳴を上げられる可能性がありました。そうなれば、二階のカフェのマスターや客に気づかれてしまいます。
もしこの店主をどうこうするなら、一撃で、悲鳴を上げる間を与えず、仕留めなければならない――そう考えたのですが、そもそも封筒の在り処が分かりません。
ならばここは素直に問いに答え、封筒を受け取り、その後に……。
そう考えたのです。
ですがすぐに思い直します。
テトを手に掛けるのは、リスクがあり過ぎると、クールダウンできたのです。
それは偶然にもレジカウンターの隅に、エドマンドが置き忘れた自身のサイン入り本が目に入ったからでした。
自分は、あのタイド・ティント・メーよ。
合言葉として言ったことを、店主が鵜呑みにするわけはないわ。
そこでこんなシミュレーションまでしました。
「『悪事と報い』を執筆したのは誰か?」と問うテトに対し、「ソラリス・ママレード」と笑いながら答え、「私の幼馴染みは茶目っ気があるわ。書いたのは私なのに、自分の名前を言わせるなんて!」と誤魔化せばいいと思いついたのです。
タイドは思いついたままを実践し、テトはそれに応じたように見えました。笑うタイドに合わせ、自身も笑い「では封筒を取ってきます」と、金庫に向かったのです。そして封筒を手に戻って来て、レジカウンターに置きました。
手を伸ばし、とっとこの封筒を持ち帰ろうとしたタイドに、店主のテトはこう告げたのです。
「あなたは故ソラリス未亡人の良作を、沢山読んできたはずです。タイド・ティント・メーの作品にするために、彼女の書いたものを、いじくりまわす必要はなかったのではないですか? 彼女の作品を読み、感じたことを元に、ゼロからタイド・ティント・メーの作品として、全く別の物語を生み出せば良かったのではないですか?」
これを聞いたタイドは、冷静さを失います。笑って終わらせるはずだったのに。テトは既に自身とソラリスの関係性を知っていることに、焦りを覚えました。
「この封筒の中の、故ソラリス未亡人の遺作。これを読み、あなたは贖罪の日々を送るべきです」
テトのこの言葉に、さらにタイドの頭に血が昇ります。故ソラリス未亡人の遺作? これからタイド・ティント・メーの新作になるものなのに!
こうしてタイドは、護身用に持ち歩いているあの短剣を取り出したのです。