運が味方した?
テトの話を聞いていたタイドは何を考えていたのか?
まず、ソラリスは死亡したと認識することからスタートしました。生きているからこそ、新作の原稿の受け渡しの連絡が来たと思っていたのです。どうしてソラリスの死後、あの手紙が届いたのか。そんなことを考えていたので、オウムにまつわるロマンチックな由来なんて、ろくに聞いていませんでした。それでいてあの封筒、つまりは新作の原稿の話が出た時には、ハッとすることになります。
そもそもあの日、あの本屋を訪れたのは、新作の原稿を受け取るためです。即席のサイン会なんて、やっている場合ではありませんでした。
テトの話が終わり、ソラリスの屋敷へ行くと聞いた時は、もはや捜査への関心はありません。ソラリスは死亡しており、犯人捜しをしているものの、完全に暗礁に乗り上げている状態だと分かったのです。何か証拠になるようなものを、残したわけではありません。それにあの雨で足跡も残っていない。タイドが訪問したことも、使用人たちは知らないのですから、まず足はつかない。
きっとソラリスを殺害した犯人は見つからず、迷宮入りするだろう――タイドはそう考え、新作原稿を手に入れることにフォーカスしたのです。
私達と別れた後は、もう知っての通り。店を臨時休業状態にして、閂をかけ、テトがいるレジカウンターに向かったのです。
なぜ店主であるテトと自分だけという空間を、タイドは作り出したのでしょうか。
それはテトに何かいろいろと聞かれる可能性を、考えたからです。ソラリスとはどういう関係なのか、結局その封筒の中身は何なのですか……などなど聞かれて答えることになった場合。あまり周囲に人がいて欲しくないと考えたのです。
ただこの時、タイドは別にテトを手に掛けるつもりはありませんでした。ゆえに二階のことまでは気にしていません。ですが運がタイドに味方したのでしょうか? 二階にはカフェのマスターと老人二人組がいるぐらいでした。かつこの二人の老人は、その後の調査で分かったのですが、ホットケーキを注文していたのです。そしてホットケーキは提供するまでに時間が三十分程かかります。その間、老人たちは熱心に本について談義するでしょう。マスターはホットケーキ作りで、忙しいはずです。
つまり、一階でテトとタイドの間に何か起きても気づかれにくい。余程の大声を出さないと気づいてもらえない。そういう状況が出来上がっていたのです。
こうしてついにその時が来ます。
レジカウンターに到着したタイドは、テトと向き合いました。
テトはソラリスから、こう言われています。
――「タイド・ティント・メーと名乗る女性がカウンターに来たら、『あなたの処女作とされる「悪事と報い」を執筆したのは誰ですか?』と尋ねてください。そこで『ソラリス・ママレード』と答えたら、この封筒を渡してください」
一方のタイドは、名乗りさえすれば、新作の原稿は手に入ると思っていました。まさか「あなたの処女作とされる『悪事と報い』を執筆したのは誰ですか?」と問われることは、想定していません。
しかもテトは、キッパリこう言ったのです。






















































