とんとん拍子
ソラリスは、いつも新しい物語を思いついては、それを形にしていました。ありそうでなかった物語を生み出していたのです。
一方のタイドは、ソラリスが書いた物語を読み、はじまりの部分と終わりの部分を我流アレンジし、中身にもあちこち要素を追加したり、削除したり。ソラリスが育てた森を伐採し、動物を追い出し、家を建て、「これが私の作った街です、さあ、見てください」をこの頃からしていたのです。
そこで転機が訪れました。ソラリスは後に夫となる人物と出会い、愛を育みます。孤児だったため、はっきりとした年齢は分からなかったのですが、タイドはソラリスより若く、容姿にも自信を持っていました。ゆえに羽振りのいい青年がソラリスと距離を縮めることは……あまりよく思っていなかったようです。
「どうせ本気じゃないわ」「騙されているだけよ」「最後は捨てられるわ」
そんな言葉をタイドはソラリスに投げかけていましたが、そんなことにはなりませんでした。
ソラリスは無事結婚し、孤児院を出ました。
残されたタイドは、自身も孤児院を出るためにと、物語を書き始めたのですが……。
いつもソラリスが書いた物語を見せてもらい、それをアレンジしていたのです。それがないと、物語なんて書けません。書けてもそれは、とても出版社に持ち込めるものではなかったのです。
そこでタイドは新婚生活を始めたソラリスに頼み込み、そしてあの作品『悪事と報い』をソラリスに書いてもらったのです。それを受け取ったタイドは……。これに何か手を加えるとダメかもしれないと気づき、なんとそのままを出版社に持ち込んだのです。
その結果、とんとん拍子で出版化が決まり、「これが処女作とは思えない!」と絶賛を受けました。そこからはもうタイドはソラリスに頼み、定期的に原稿を書いてもらい、それを受け取っていたのです。
何より一度『悪事と報い』で絶賛されたことで、タイドは勘違いしていました。『悪事と報い』は、ソラリスの物語に一切手を加えていないのです。よって絶賛された才能はソラリスだったのですが……。
タイドは自信を持ち、ソラリスから受け取った原稿に手を加え、「これが私の作った街です、さあ、見てください」を行い続けてしまいました。
なぜ、ソラリスはタイドに協力をしていたのでしょうか。
その胸の内もその物語の中で明かされていました。
孤児院で共に育ち、いつか二人でここを出ようと誓っていたのに。ソラリスは運命の出会いを得て、孤児院を出ることになりました。どこかで申し訳ないという気持ちがあったのです。
さらにタイドは、女流作家になることであの孤児院を出ることができました。ここでもしタイドを手伝うことをやめたら……。彼女が困ったことになる――そう思うと、タイドに「こんなことはもうやめましょう」とは言えなかったのです。
ですがこれは、タイドのためにはならないことでした。よってソラリスは自身の目が三年以内に失明することを知ると「これが正しい裁き」と思ったというのです。
タイドのためを思い、良かれと思って原稿を書いて渡していたこと。それは『悪事』。よって失明は『報い』と受け止めたと、その物語には書かれていました。
ここで遂にタイドとソラリスは、決別の時を迎えることになったのです。
決別の時をどのように迎えることになったのでしょうか。
それはタイドが聴取の場で話すことになりました。