また喧嘩かね!
「シャールは、なんだかうじうじしていて、見ていてイラッとするというか。いつも教室の隅で本を読んでいるか、何か書いていて……気持ち悪いんですよ」
「そんな理由で嫌がらせをしていたなんて、信じられませんわね。シャールがあなた達に、なんの迷惑をかけたというのですか? 金輪際おやめなさい、そういうことをするのは! 弱い者いじめをする人間程、醜いものはないですわ。それに……」
そこで話すのを止めると、三人は「なんだ!?」という感じで私をじっと見ています。どの子も本当に。孫みたいです。いじめなんてせず、仲良くしてくれればいいのにねぇ。
三人の視線を受けた私は、勿体ぶるようにして、説明を始めることにしました。
「女子にモテませんわよ。女子は、横柄な態度をとったり、誰かに嫌がらせをしたりする男子のことが、嫌いなのです。なぜかって、そんなことをするのは、カッコ悪いことですから」
「えっ」と三人の殿方は動揺しています。
入院している間の楽しみは、テレビのみ。今時の若い子は、テレビなんて見ないのでしょう。でも私にとっては、入院している時も、昔と変わらず、テレビは魔法の箱。そこで散々いろいろ見ましたからね。
蛙化現象。
若い世代では、好きな相手の嫌な一面を見た瞬間、気持ちが冷めてしまうそうですね。男女別でそのテレビ番組では、アンケートをとっていましたけど、冷める原因のナンバー1は、男女共に「他者に対し、横柄な態度をとった時」。
それはそうでしょう。好きな相手ではなくても、他者に対して侮蔑するような言葉、意地悪い言葉をかける人を見たら、嫌な気持ちになりますよね。
動揺する三人の殿方はこれでいいとして、私はポマードに耳打ちです。
「今度この三人が誰かに意地悪したら、喧嘩で解決せず、私に知らせてくださいませ。私はミーチェ・シェリーヌ。公爵家の令嬢です。社交界では顔が知られていますから。この三人が舞踏会に参加したら、どの令嬢ともダンスできずに終わります」
これは家門の有効活用。ポマードにも、いじめっ子のために暴力を振るい、自身の名前を落としてはいただきたくないですからね。
「あんたって、アイタタタ……わかった、いえ、分かりました」
摘んでいた耳朶を離したまさにその時、リリーさんが教師を連れ、戻ってきてくれました。すると三人の殿方は「やべっ」と逃げようとしますが、そこはポマードが見事な足払いで、全員を転ばせました。
「おい、ブラックくん! 君はまた喧嘩かね!」
「確かにこれは喧嘩ですが、ブラック様が喧嘩をしたことには、理由があります。それをご説明しますわ」
こうして私が教師に説明することで、ポマードは悪人にならずに済み、むしろ教師からこんな風に言われていました。
「まさかブラックくん、クラスメイトを庇うために……。もしやこれまでの喧嘩もそうなのか? どうして素直に言わないんだ?」
「だってどうせ信じないだろう、俺が言ったことを」
「そんなことはない。少なくとも今日、そこの令嬢と先生は、ブラックを信じたぞ。今度誰かに嫌がらせをする奴を見かけたら、先生に話せ。先生はブラックを信じる」
あらまあ! 昭和にいそうな熱血教師。こんなところにもいたのですね。不良に歩み寄る教師を見ると思い出します。今の若い子にも見て欲しいですね。正太郎と欠かさずに見ていた金〇先生を。
何よりも熱血教師がいてくれるなら、私が家門を有効活用しないで済みます。
「ところでご令嬢、君は隣の女学校の生徒ですよね。今日はなぜこちらの学園に?」
熱血教師に問われ、自分がここに来た理由を、思い出しました。
「で、殿下の、婚約者の練習試合を観覧しに来たのですわ!」
「ああ、剣術倶楽部の練習試合ですね。今回は上級生五人ずつでの対戦と聞いています。早く行かないと、終わってしまいますよ」
これはまずいですね。リリーさんと顔を合わせた私は、慌ててこの場を立ち去ることになりました。
競技場についた時は……既に遅しという状況です。久々に全力疾走したのに、間に合いませんでした
「すまないです。俺のせいで、間に合いませんでしたね」
驚いて振り向くと、なぜかそこにポマードがいるのだから、ビックリです。全力疾走した私達の後を、ついて来ていたのかしら!? その割には息が全然上がっていないのです。若いからかしらね? あらやだ、私も若いのに。
「ミーチェ!」
今度はジョナサンから名前を呼ばれ、そちらへ顔を向けると……。
あらあら。
拗ねています。
しかもとても怖い目で、ポマードのことを睨んでいます。
ポマードは何かを察知したのか「シェリーヌ嬢、今日はありがとうございます」と、深々と頭を下げて去っていき、代わりに駆け寄ったジョナサンは……。
「ミーチェ、どういうことかな? なんでブラックなんかと一緒にいるのですか?」
始まってしまいました。でもこれは仕方ないことです。約束を破ったのは、私ですから。謝罪を述べようとしたまさにその時です。
「殿下~!」
もう、次から次へと忙しいです。孫に、展開はゆっくりにして頂戴と、お願いしたくなってしまいます。しかも案内標識が、表示されています。
なになに。
『ヒロインが登場しました。彼女は練習試合に来なかったあなたのことを、責めます。意地悪するチャンスです』って。全く嫌になっちゃいますね。悪いのは私ですから、意地悪なんてしませんよ。
その後は、拗ねるジョナサンに平謝りで、責めるヒロインには反抗せずで、なんとかやり過ごしました。
やはり学園に近づくのは危険です。しばらくは一切、学園に近づかなかったのですが……。
今度は、あの騎士団の団長の息子エドマンド・トリーリと、絡むことになってしまいました。