そう言えば
「……ダメだ。頭の中がぐちゃぐちゃになる。ただ、今一番確認したいことは、その私書箱263510を契約した人物だ。それが何者か分かれば、この謎を突破できる気がする」
ポマードのこの一言には全員、同意です。
「今から王都中央郵便局へ行くのは?」
ポマードがシャールと私を見て提案してくれましたが、ここまで来たのです。行くしかないでしょう。それに王都中央郵便局は、巨大な郵便局。この世界では珍しく、一日中稼働しているのです。ニュースペーパーの印刷所も近くにあり、こちらも二十四時間稼働。この辺りは“眠らないエリア”として知られていました。
ヘッドバトラーのファーガソンさんに、重要なことを教えてもらったお礼を伝え、王都中央郵便局へ向かうことにしました。「中央」と名についていますが、実際、王都の中心部にあるのは王宮と宮殿。“眠らないエリア”は王都の西部にあります。
この王都というのは、前世で言うなら首都みたいなもの。結構広いので、馬車での移動はそれなりに時間がかかります。それでも乗り掛かった舟。私書箱263510を契約しているのは何者なのか。明らかにしたいと思い、馬車に乗りこんだのですが……。
「そういえば、エドマンドは?」
ポマードに聞かれ、私とシャールは顔を見合わせます。
そういえば本屋まで戻り、忘れていたサイン本を受け取ったら、ソラリス未亡人の屋敷へ来ると言っていました。でもまだ来ていません。
それを知ったポマードは「思いついた!」という顔で口を開きます。
「もしかすると、店がもう閉まっていたとか?」
「それはないわ。ほとんどのお店が日没まで営業でしょう」
私が指摘するとポマードは「そうだよなぁ」と腕組みします。
サマータイムの時期は、日没が二十時や二十一時になることがざらです。今も間もなく十八時になりますが、外はまだまだ明るい状態。おかげで「暗くなる前には帰ります」で、結構遅い時間まで外出できてしまうのです。ある意味、便利ですね。
「エドマンドは騎士を目指しているぐらいです。真面目で義理堅い。もし家に帰る必要ができたら、連絡をくれると思います。……何か変なことに巻き込まれていないといいのですが……」
シャールの言葉に、ポマードと私は一瞬、顔を見合わせますが……。
「あの筋肉があれば、敵の武器の方が壊れると思う」
「例え何かあっとしても、エドマンド様が負けるが気がしませんわ!」
そうポマードと二人で声を揃えたものの。
来るはずのエドマンドが来なかったのです。しかも今、王都中央郵便局へ移動している最中。エドマンドが来ていないのに、ここまで移動していることへの申し訳なさと、本当に何も起きていないのかと心配です。特にお灸をすえる気持ちで送り出してしまったので、なおのこと私は気にかかります。
「あ、止めてもらえますか!」
ポマードが御者に声を掛け、馬車がガタンと急に止まりました。
どうしたのかと思ったら、王都警備隊の屯所があるので、そこでエドマンドの件を確認してもらうと言うのです。
王都警備隊は警察のようなもので、その屯所は言ってみれば交番。王都のあちこちに屯所がありました。屯所には、常に数名の隊員が常駐しており、何かあった時に対応するのは勿論、伝令の役目も担っていたのです。
今、ポマードが見つけた屯所で「王都にある、とある本屋で何か起きていないか、確認してほしい」と頼むと、そこにいた隊員がすぐ近くの屯所まで、この依頼内容を伝えてくれます。そこからリレー形式で、本屋に近い屯所まで、ポマードの依頼が伝わるのです。
これはもう、壮大なスケールの伝言ゲームですね。
ただ、間違いがないよう、依頼内容は紙に記載します。
そして早馬を使い、伝令兵のように、次の屯所へ向かうのです。
この原始的な方法を知るにつけ、前世の電話やスマートフォンはすごいわねぇと思ってしまいます。
無事、依頼が済むと、再び馬車を走らせ、程なくして王都中央郵便局に到着しました。
レンガ色の建物とは別に、巨大な倉庫のような建物があり、そこに私書箱が設置されています。コインロッカーのようにずらりと私書箱が並んでいました。
まずは窓口に寄り、そこでポマードは自身の身分を明かします。その上で、捜査のため私書箱263510の契約者が誰であるか、確認したいと話したのです。
窓口の職員はすぐに台帳を持ってきて、契約者の情報を開示してくれました。
いよいよ謎の人物が判明します。
私書箱263510の契約者の名は――。