実は……
「実は故ソラリス未亡人から、かれこれ五か月ぐらい前に、お預かりしている荷物……封筒があります。何が入っているか分からないのですが、ずしりと重く、恐らく本……?なのかと思いますが、預かったものですし、勝手に開けることはできません」
「五か月前。……おそらく、ですが、本件とは無関係でしょうね」
私がそう言ってポマードを見ると、彼は頷き、テトも「そうですよね……」と独り言のように呟く。
「あの、テト様。なぜそれを預かったのですか?」
私が尋ねると、テトは「実は……」と、不思議な話を教えてくれました。
これまで誰にも話したことはなく、テトの胸の内に秘めていたというそれは……。
「何でもレジカウンターに来て、ある合言葉を言う女性がいたら、この封筒を渡して欲しいということだったのです。いつ来るかは、ハッキリしていませんが、三年以内には来るかと。もし三年待ってこなかったら、封筒は破棄していいということでした」
「なるほど。それでその合言葉は何なのですか? それとその封筒は?」
話の流れでポマードが尋ねると、テトはこれまでにない強い表情で、こんなことを語り掛けます。
「合言葉をお伝えしないとダメですか? 故ソラリス未亡人は、もうこの世にいませんよね。どのような意図があり、わたしに預けたかは分かりません。ですがわたしを信頼して預けたものであれば、無下にできないと思います。できればわたしの方で預かりたいのですが……。それに故ソラリス未亡人が殺害された事件との関連性なんて、なさそうですよね? もし関連するのであれば、勿論、合言葉についてお話します。封筒もお渡ししますよ」
ああ、この御仁は真面目で心意気がある方ですね。
王都警備隊なんて、国家権力ですから。
ポマードは下っ端な新人ですが、警備隊員の一人に変わりはありません。
そのポマード相手に、自分の正しいと思うことを話せるのは、なかなかのものです。
「そう言われると、そうですね。……本件と関りがある、そうなったら、改めてお聞きするかもしれません。ですが今は免除します」
ポマードは丸くなったわね、本当に。
昔のポマードなら「何っ、話せよ!」と力ずくで、聞き出したかもしれません。
ですが「免除します」だなんて。
なんだか上から目線。
「ポマード様。今日は、お仕事とは関係なく、ここを訪問していますよね? ですがテト様は、今はお仕事中なのですよ。それなのに時間を割き、私達に話をしてくださっているのです。そんな相手に対し、『今は免除します』だなんて。少し、上から目線が過ぎませんか。私はそんな風に権力をかざすポマード様は、見たくありませんわ。それに……ガッカリです!」
この時のポマードと言ったら!
何でしょうか。
漫画の一コマのように、縦線と「ガーン」という効果音がピッタリな表情で固まっています。それを見たエドマンドが「ははは、ポマード、ここは素直にごめんなさいだな」と背中をバンと、割と勢いよく叩きました。
おかげで我に返ったポマードは、テトにごめんなさいをして、そしていよいよソラリスの屋敷へ移動することになったのです。テトに御礼を伝え、店を出て馬車に乗ることになりましたが……。
ずっと私達の様子を黙って見守っていたタイドとは、ここでお別れとなりました。
「あなた達は素晴らしかったわ。とても参考になったし、勉強になりました。ありがとうございます。……犯人が早く見つかるといいですね」
タイドはそう言うと、私達にペコリと頭を下げます。
私達もサインと黒鉛とメモの御礼を伝え、そして馬車に乗りこみました。
ここへ来るのと同じで、リリーさん達使用人のみんなは、別の馬車に乗りこんでいます。
一方のタイドは、出発する私たちを、店の前で見送ってくれました。
これにはシャールと二人で、感動せずにはいられません!
こうしてソラリスの屋敷へ向け、移動する馬車の中では。
先程テトから聞き出した話を四人で反芻しましたが……。事件解決の糸口になるようなものは、特に見つかりません。
「あ」
そう声をあげたポマードが、馬車を止めさせました。
どうしたのかと思ったら……。