手掛かりを求め
そのオウムは、亡き夫からある言葉を習っていました。それは「アイ・ラブ・ユー」です。留守の間、主人に代わり、このオウムはソラリスに、「愛しているよ」を伝え続けたとのこと。
なんてロマンチックな話でしょうか。
子どもがいなかったソラリスにとってそのオウムは、亡き夫との間にできた子供のように思えていたかもしれません。大切にと思い、稀にする外出へ同行させた……というのも納得ですね。
「オウムを連れた故ソラリス未亡人は、取り置きしてもらった本を受け取り、それですぐに帰られていたのですか?」
シャールが熱心にメモを取りながら尋ねます。
「いえ。二階のカフェへいつも行かれ、紅茶とスコーンを注文されるのです。いつもこのメニューですからね、そしてオウムを連れているので、常連さんはみんな、彼女のことを覚えていました」
ソラリスは定期的にこの本屋へ来ては、取り置きした本、その時に気になった本をまとめて買っていたそうです。ただここ半年ぐらいは、「目が疲れて、文字が読みにくい」と購入する冊数は減っていたとのこと。
聞くとソラリスは、六十五歳。その年齢になると老眼もありますからね。気持ちはよく分かります。小さい文字は読むのが大変!
それでもこの本屋には二十年以上通っており、どうやら旦那さんが亡くなる以前から、この本屋を愛用していたようなのです。
「スコーンと紅茶を楽しみながら、購入した本については、読むというより、眺めている感じだったそうですよ。そして懐中時計をお持ちだったようで、きっちり一時間。馬車も待たせているからですかね。一時間経つと、お会計をされ、馬車へ向かわれていました」
「カフェで紅茶とスコーンを楽しまれている間、故ソラリス未亡人は、どなたかと会ったりすることは? 必ずお一人だったのですか?」
私が尋ねるとテトは、すぐに答えを教えてくれます。
「ええ、お一人でした。過去に誰かと同席していることは、一度もなかったと思います。カフェを任せているマスターとは、故ソラリス未亡人が来店すると『今日はオウム婦人がいらしてね』と会話するのが当たり前でした。でもそこで誰かと一緒に紅茶を楽しんでいたとか、待ち合わせしていたとか、そんな話をすることはなかったのです。あれば珍しいので覚えていると思いますよ」
もしも殺害される二日前に、唯一外出して立ち寄ったこの本屋やカフェで、誰かと接点があれば。犯人が浮上したかもしれません。ですがそれはどうもなさそうです。ちなみにポマードによると、本屋と屋敷までの往復で、何か事故や事件に遭遇していないか、その確認は済んでいるとのこと。すなわち馬丁兼御者の使用人に聞いたところ、何もなかったそうです。
「せっかく現場に来たが、手掛かりがなさそうだ」
エドマンドが残念そうに呟くと、テトが思いがけないことを口にしました。
「実は、王都警備隊に、関係ないことだろうと思い、話していないことがあるのですが……」
テトがチラリとポマードを見ます。
ポマードは「えっへん」と少し偉そうに咳払いをしました。
「事件に直接関係ないことを話さなかったとして、罰せられることはありません。何せ関係ないと思われることなのですから」
この言葉に安心したテトは、こんなことを話しだしました。