チャンスがあれば戦う!?
平日ですが天気もよく、馬車道を挟むように伸びている歩道には、沢山の人が行き交っていました。路上で花を売る人やパンを売る人の姿も見えています。
「基本的に屋敷にいることが多い故ソラリス未亡人だけど、実は殺害される二日前に外出している。本屋に向かったんだ。そこでは二冊の本を購入している。一冊は『クラーケンの正体に迫る』もう一冊は『東方鳥類図鑑』だ」
私の対面の席に座るポマードがそう話し出すと、彼の隣に座るエドマンドは……。
「随分変わった趣向の本だな。クラーケンと言ったら、海にいるという海獣だろう? 僕はチャンスがあれば、戦ってみたいと思っている」
エドマンドがとんでもないことを言う一方で、シャールが軌道修正してくれます。
「二冊とも生物に関する本ですよね。生き物に関心がある方だったのでしょうか、故ソラリス未亡人は?」
「そうだな。故ソラリス未亡人は、オウムを飼っている」
ポマードが答えると、エドマンドが目をキョトンとさせています。
「オウム? 何だい、それは?」
前世ではペットとして飼われているオウムですが、この世界では珍しい鳥です。そもそも私がいる大陸には存在しない鳥で、船乗りが連れ帰り、一部の王侯貴族がペットとして飼い始めたと聞いています。飼育は難しいと聞いていますし、希少性が高いオウムを飼っているとは。
平民とはいえ、資産家になれば、貴族となんら変わりませんね。オウムだって飼えるのですから。
私がオウムのことを振り返っている間に、シャールがオウムについて、エドマンドへの説明を終えていました。
「本当に、鳥が人間の言葉を話すのか?」
エドマンドが丸太のようにがっしりした腕を組み、信じられないという顔で首を傾げます。するとポマードが即答しました。
「ああ。話すんだよ。自分も故ソラリス未亡人の屋敷へ行き、現場検証をした時に、オウムを見せてもらった。その時は一つの単語しか話していなかったけど、『ネムイヨ』『オナカスイタ』『インクキレタ』って、まるで人間みたいに話すんだって。ちなみに自分が聞いた時の声は……なんというか、おじいちゃんの声みたいだった」
「そのオウムは今、どうなっているのですか?」
シャールが尋ねると、ポマードは何とも言えない顔になります。
「それがさ、困った状況だよ。一応、引き取り先として、動物園を当たっている。オウムなんて珍しいから、飼育の方法が動物園でもよく分からないらしい。故ソラリス未亡人の屋敷の使用人は慣れているから、まだ屋敷に残ってくれているヘッドバトラーが、今はそのオウムの世話をしてくれているけど……。どうなるんだろうな? 変な話、オウムはこの事件の目撃者なんだよ」
「それは故ソラリス未亡人が殺害された部屋に、オウムもいた、ということですか?」
私が尋ねるとポマードは「そうなんだ」と頷きました。
ソラリスは部屋で、背中から心臓を一突き、さらには首を斬られ、死亡していました。犯行の手口にはついては、背中から一突きした後に、首を斬った説。まずは首を斬り、背中を一突きした説。この二つで意見は割れているそうです。
もし背中から一突きされたなら、犯人に背を見せていることになります。ある意味、背中を見せる=隙を見せるとなり、顔見知りの犯行ではないかと考えることが可能です。ですがこの世界の捜査技術では、どちらの傷が先につけられたのかを、解明できません。
「唯一の目撃者がオウムでは、どうにもならないですね」
シャールが残念そうに言うと、ポマードはこんな切ないことを聞かせてくれたのです。