現場が基本
「特にシャールは物語を書いているんだろう? だったらこういう推理とか、いけるんじゃないか?」
ポマードに振られたシャールは、首をぶんぶん振って「そんなことありません」と即否定します。
「物語を書くからと言って、なんでも書けるわけではないです。僕が書けるのは、ドラゴン退治や冒険、宝探しのファンタジー。チープな三文小説の、推理小説と言えるのか、というものなら書けるかもしれません。ですが本格的な推理小説は、無理ですよ。僕の脳が、推理小説脳になっていませんから」
お茶会をしてから約三か月で、シャールは随分と弁が立つようになりました。背筋もピンと伸びるようになり、体つきも、大変たくましくなったように思えます。何よりシャールのハキハキとしている姿を見ると、こちらも何だかシャキッとなるのです。
「それに事実は小説よりも奇なり――と言いますよね。僕達が想像できないような結末が、この事件には待っているかもしれません。それはきっと、僕達の想像の域を超えているかもしれません……」
シャールにそう言われてしまうと、ポマードは「なら解決は無理だよなぁ」と眉を八の字にします。そして自身の黒髪をかきあげ、ため息をつきました。
「まあ、こういう場合。推理できるかどうかは別にしても、現場を見せてもらうのは基本だろう? その故ソラリス未亡人が殺害された部屋。それと殺害日近辺で立ち寄った場所があるなら、そこを見たいな」
エドマンドがそう言うと、白い歯がキラーンと輝きます。
それを見てシャールが「エドマンドはなんだか詳しそうだね」と尋ねると、エドマンドは「いやあ、こう見えてミステリーが好きなのさ」と快活に笑ったのです。これはなんだか意外過ぎてシャールと私が顔を見合わせ「「そうなのですか!」」と声が揃ってしまいました。
その一方でポマードは、左手にグーにした右手をポンとあて、納得顔です。
「ああ、そうか。まずは現場だよな。なあ、みんな、今から時間あるか?」
「え、まさかいきなり今日、これから、案内してもらえるのですか?」
私が尋ねると、ポマードはコクリと素直に頷きます。
前世と違い、捜査状況を部外者に話し、しかも犯行現場にまで案内してもらえるなんて。驚きです。そう思ったまさにその時。
『資産家老婦人殺害事件の真相を究明しようというイベントが解放されました! このままイベントに参加するには……』
いつも突然、表示される案内標識には、ビックリです。
この資産家老婦人殺害事件は、乙女ゲームのイベントの一つだったのですね!
それならば、ポマードが捜査状況をべらべらしゃべるのも、現場に案内するのも納得です。そうしないと、イベントは進行しませんからね!
それにこういう推理って、なんだか憧れませんか。
私はね、『怪人二十面相』は大好きでしたからね。
迷うことなく「参加する」ボタンを押しちゃいましたよ。
「シェリーヌ嬢は時間があるんだな、それでシャールは?」
私がボタンを押す動作を「現場に行く」の挙手だと思ったポマードは、シャールとエドマンドに声をかけ、二人とも「現場に行く」に同意を示しました。
するとポマードは「本屋に行き、それから屋敷へ案内するよ」と言い、店員へ目配せします。お会計を終えると、ポマードが乗って来た馬車に、四人で乗り込むことになりました。
使用人のみんなは、それぞれの家門の馬車に乗り込むことになり、リリーさんはシャールの馬車に乗せてもらうことに。
こうして馬車が出発します。
お読みいただき、ありがとうございます!
名探偵明智小五郎もシャーロックホームズもRespect!
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以下作品、完結しました。一気読みできます!
ネット小説大賞様からも感想到着~
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クライマックスは筆者が泣きながら執筆。
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