攻略対象の殿方
どうしても引っかかっていること、それは、ヒロインの攻略対象と言われる殿方たちです。
私は孫が言っていた悪役令嬢であり、ヒロインの恋路を邪魔するそうですが、正直、私はそんなこと、する気にはなりません。なぜなら攻略対象の殿方たちが、これっぽっちも魅力的に感じられないからです。
まず、私、ミーチェの同い年の婚約者。
なんとまあ、この国の王太子様。つまりは王子様です。
王子様の婚約者なんて!と驚きましたが……。
その王太子様、お名前はジョナサン・アレクサンダー・キャンベル。
アレクサンダーは知っていますよ、私。有名ですもんね。そのお名前が真ん中にあるぐらいですから、大変すごい方と思ったのですが……。
見た目は、はい。それはもう麗しいと申しますか……。孫が時々口にしていた「イケメン」とは、彼のような人物を指すのでしょうね。金髪に碧眼。老眼鏡が絶対に落ちない鼻の高さ。身長もビックリするぐらい高くて。でも幼稚なのです。女学校の隣にある、王立リットモンダー学園に入学したジョナサンは、私より先に十六歳になりましたが……。
学業はそれなりですから、頭は悪くないのでしょう。ですがすぐに拗ねる、自分が注目されないと機嫌が悪くなる、何かと自身の地位とお金に頼る……。自身の容姿を鼻にかけ、自分が一番という“イケメン”王太子様は、正直、苦手です。
さらに王太子様とクラスメイトであり、騎士団の団長の息子というエドマンド・トリーリ。彼は焦げ茶色の短髪で、とにかく筋肉隆々。抜群の運動神経を誇られ、様々な武器を扱えるようで、そこは立派だと思います。
ですが学業はあまり振るわず、シャツのボタンを不必要にはずして胸筋を見せつけ、シャツをまくりあげ、上腕二頭筋を見せようとするのが……。困りますね。
ただ、悪い方ではないです。その過剰な筋肉露出さえやめてくださればいいのに。そう思うような方です。
あともう一人いらっしゃるのですが……。ポマード・ブラック。お名前にブラックとついている通り、ギャングの息子さんです。ギャングの息子……そんな方が王族の通うような学園にいることに心底驚きましたが、ここは乙女ゲームが舞台であり、高校生の孫が書いた小説の世界。仕方ないのでしょう。
そのポマードは、いわゆる不良ですね。教師を脅し、同級生をカツアゲし、先輩と喧嘩をする。ポマードが騒動を起こし、何人ものご子息が、転校をなさっているとか。男爵家の子息ということですが、その爵位もお金で手に入れたもの。父親であるブラック男爵には、常に黒い噂が漂い、人身売買、違法賭博、詐欺……と恐ろしいものばかり。
ただ、不良に心惹かれるのは分かります。
だって私の青春時代は、不良やアウトローっぽい俳優さんや歌手が、人気でしたから。どこかで憧れはあります。でもそれは銀幕やブラウン管越しに見ている時のお話で。演じている俳優さんや歌手の皆様も、本当に不良ではなかったですからね、基本的には。
幸い、女学校とジョナサン達が通う学園は隣にあるものの、それぞれの敷地が広く、そうヒロインの攻略対象の皆様と、遭遇することはありません。一度、ポマードが大声で怒鳴る現場を、馬車で通過することはありましたが……。触らぬ神に祟りなし。近づかないようにしようと思いました。
そのような感じでしたので、私はヒロインであるシカリアーナ・ララック子爵令嬢が、どの攻略対象の男性をお選びになろうと、何もするつもりはありません。不用意にヒロインに近づくことも、しないと思っています。
それでも同じ女学校に通っていますから。あの不思議な案内標識が突然、表示されます。
それは悪役令嬢であるミーチェに、どんな意地悪をヒロインにするかの指示でしたが……。悪さを指示するなんて、とんでもないですね。こういうものは、反応してはなりません。無視するのが一番です。
こうして婚約者であるジョナサンとはつかず離れずの関係を維持し、他の攻略対象の殿方たちとヒロインとは、一切関わらないことを決め、女学校生活を送ろうとしたのですが……。