お茶会
桜色の明るいドレスを着て、シャールのお茶会に向かい、ビックリでした。
お茶会というと、お友達を何人か呼び、お菓子や紅茶を楽しむのが定番。でもいざ足を運んだから、そこには偉丈夫な蛮族を撃退した猛者のレオンハイム公爵と、紺色のセットアップを着たシャールしかいません。
しかも私が到着すると、レオンハイム公爵は「後は二人で楽しんでくれ」と席を外してしまうのです。しかも離れた場所で待機していた侍女のリリーさんに「君も休憩して構わないよ、ここには警備兵もいるからね」と言うと、そのまま彼女も連れて行ってしまったのです。
お茶会は、レオンハイム公爵家の庭園の東屋に、セッティングされていました。
そして庭園のあちこちに、確かに警備兵がいます。ただ距離があり、みんな背をこちらへ向けていました。しかもテーブルには、ティーアーンが置かれているのです。
ティーアーンは、金属製の紅茶専用で使われる卓上湯沸かし器。注ぎ口から紅茶が出てきてくれるので、そばにメイドさんがいなくても困りません。
つまりですね、シャールといきなり二人きりにされてしまったのです。
しかもシャールは、私が来ることを知らされていなかったようで、俯いて陶器みたいな頬を桃色に染めています。シャールは本を読み、自身で物語を紡ぐことを好む、大変大人しい性格。普段から令嬢と二人きりで話す機会なんて、そうはないのでしょう。完全に緊張しています。
しかし、乙女ゲームというのは大胆不敵です。ルート解放となると、いきなり攻略対象となるシャールと二人きりにされてしまうのですから。私、ミーチェは外見十八歳、中身七十九歳ですからね。今さら男子と二人きりで、動じることはありません。
でもシャールは年齢そのままで、さらに内向的なのだから……。
それにまだガキ大将にいじめられていた頃の、ちびっ子だった正太郎とシャールは重なる部分があり、「母ちゃんがいるから大丈夫よ!」という気分になってしまいます。
「シャール様、突然、ごめんなさいね」
「い、いえ。ち、父上が、勝手に ですよね」
ここで「よく聞こえないわ」と言うのはダメなんです。
内気な子は、言葉の伝わり方が他の子とは違うのよね。
こちらが怒っているわけではないのに、「なんだか怒られている」と感じてしまう。
だからここは……。
「シャール様。私、まだ十八歳なのに、耳が遠いみたいなの。もう一度、言ってくださるかしら?」
「! し、失礼しました。その、父上が僕には内緒で、勝手にシェリーヌ公爵令嬢をお茶会に招待したのだと思います。ですからシェリーヌ公爵令嬢は、何も悪くありません!」
言い方ひとつで、シャールの話し方が変わってくれました。
私にちゃんと聞こえるように話そう……その心意気一つで、声が大きくなり、自然と背筋が伸びています。顔をあげ、私を見て、はきはきと話してくれました。
こうなれば、もう大丈夫です。
巷で流行っている小説の話から始まり、シャールが書いている物語の話をすることになりました。自身が書いている物語について語るシャールの瞳は、もうキラキラと輝いています。
がんばれ~。母ちゃんが応援しているよ~と、エールをいっぱい心の中で送ってしまいます。
こうやって初めてじっくりシャールと話して分かったこと。
それはシャールが内向的と思われているけれど、本当はこうやって饒舌に話せるということです。シャールの父親は武道派。そんな父親にドラゴン退治や宝探しの物語を聞かせても、呆れられてしまう……と思っているのではないでしょうか。
それをさりげなくシャールに確認すると……。