【特別更新】王都での再会(後編)
今日のお茶会のために用意したスイーツ。
それは……。
メイプルシロップとクルミのタルト。
これはクルミの香ばしさとメイプルの相性が抜群なんです。メイプルシロップの風味も強く感じられ、おかわり必須。
メイプル味のアイスクリーム。
これはもうリッチな味わいで、アイスクリームの新フレーバーとして、春を迎えたこれからの季節に最適です。
メイプルシロップクリームをサンドしたクッキー。
これまた前世でいただいたことのあるクッキーを再現してもらったのですが、貴族の皆さんが喜びそうな、上品な味わいに仕上がりました。
でも一番は、焼き立てのパンケーキにバターとメイプルシロップです。
一番でこれを出してもらい、ポマードとエドマンドに食べさせると……。
「……もうさ、このメイプルシロップの香りと味を感じると、シェリーヌ公爵令嬢の顔が浮かんでしまうんだ……」
ポマードが目をうるうるさせます。
彼は王都警備隊という、前世で言うならば警察組織のような、国の機関に入隊。私達と一緒にいくつかの事件で大活躍し、王都南部警備隊の、統括警備副隊長に、異例の昇進を遂げているんです。いわばエリート中のエリートなのに! 私の前では昔のままのやんちゃで、そしてなぜか泣き虫になってしまうのだから、困ってしまいます。
「ポマード様、統括警備副隊長なんですから、そんなにすぐ泣いてはダメですよ」と宥めていると。
「分かります。自分にとってメイプルシロップは、シェリーヌ公爵令嬢の味なんです。その味と香りで、シェリーヌ公爵令嬢に習った体操を思い出し、乗り越えた事件のことが脳裏に浮かび……」
さらに筋肉がつき、もう正騎士に見えてしまうエドマンドまで声を震わせ、鼻の頭を赤くしています。
体操……エドマンドにラジオ体操を教えた日々が懐かしく感じます。
それにしても。
メイプルシロップの味は、エドマンドとポマードにとってお袋の味になってしまったのでしょうか。
前世での話。
体調がね、あまりよくない時、一人暮らしをする私をふらり一人で訪ねてくれた正太郎が、なぜかお味噌汁を作ってくれたんですよ。どうして突然、お味噌汁かと思ったら……。
「だって母ちゃん、俺がこんな小さい頃から毎朝味噌汁作ってくれただろう。俺にとってのお袋の味は味噌汁なんだ。母ちゃんが使っている煮干しも味噌もわかめもある。それでネギも用意したから、俺でも再現できるかと思ったけど……。やっぱりダメだ。母ちゃんが作ってくれないと、あの味にはならないよ。……だから早く元気になってくれよ、母ちゃん。……今日は寿司でも頼むよ。さっぱりしているし、それなら母ちゃんも食べられるだろう?」
あの時、正太郎はすっかり使わなくなった「母ちゃん」と私を呼び、随分と味の濃いお味噌汁を作ってくれたのですが……。
お袋の味。
当事者である私は、ただただ毎朝当たり前で作っていたお味噌汁でしたが、正太郎には思い出の味になっていたようですね。
結局、その後、体調は急転直下で悪化し、入院となってしまって……。
もう一度、正太郎にお味噌汁、作ってあげたかったですね。
思わずしんみりしていますが。
「エドマンド、ポマード! メイプルシロップの味と香りを思い出したら、しゃんとしてください! 次に私に会う時に、少しでも出世していないと、喝を入れられると思って、精進すること。メイプルシロップを味わったら、頑張ろうという勇気とパワーをもらえる。そう思うようにしてくださいよ!」
声を張って私がそう言うと……。
二人は背筋をピンと伸ばし、「「Yes, my lady!」」と声を揃え、シャールがくすくすと笑っています。
「「シャール、笑うんじゃない!」」と顔を赤くするエドマンド、ポマード。
「だって、二人とも、シェリーヌ公爵令嬢の子供みたいだから……」と笑うシャール。
学生時代の友人。
卒業後もたまに会い、なぜか事件に巻き込まれ、いろいろな思い出を作り上げています。
でもそこは前世と同じで。
いつまでもずっと一緒は難しいんですよね。
それでも結ばれた縁と絆は、一生続くはずです。
柔らかい南風が吹いていたこの日。
ガラス張りのサンルームには、春の優しい陽射しが降り注いでいました。
お読みいただき、ありがとうございます!
なんと本作、一二三書房様のWEB小説大賞の一次選考を通過していました~
応援くださる読者様、ありがとうございます!!!!!
現在二次選考中。ドキドキ
お読みいただき、ありがとうございます!
さらに!
実は以下の作品も一次選考を通過していました~
『断罪の場で悪役令嬢は自ら婚約破棄を宣告してみた』
https://ncode.syosetu.com/n8930ig/
こちらも二次選考中ということで番外編を公開⭐︎
ほんわか可愛い物語で
癒しのひと時をお楽しみくださいませませ(^-^)