いくら平和な国でも
「……結論から申し上げますと、第六坑道で、これまで以上に雪花翡翠が発見されています。よって一度発見されて以降、全く手応えのない第三坑道は一旦採掘をやめ、第六坑道と新たなる第七坑道を掘り進めようと思います」
雪花翡翠の採掘のために掘られた坑道を見学しながら、作業員の説明を聞き、まさに出口へ戻ったところでした。
暗い坑道からいきなり明るい外へ出ることで、その眩しさにしばらく目を開けることができません。それはみんな同じです。しばらく無言でしたが皇帝陛下夫妻が声を発し、作業員との会話が活発に行われました。
「いろいろと話を聞けたが、ミーチェ、どうだったかい?」
皇帝陛下に優しく尋ねられた私は慌てて答えます。
「とても興味深くお話を聞くことができました。採掘した時は黒い塊で、磨いていくと透明な状態になるとは驚きですね。これから少しでも多くの雪花翡翠が見つかるといいのですが……」
「そうだな。実は近々、国際的な宝石認証機関に雪花翡翠を審査してもらうつもりだ。産出量は少なくても、そこを逆手に希少性を売りにできないかと思っている。ターナー帝国の目玉になるような宝石になるといいのだが」
いくら平和な国でも。
凶作に襲われた時、他国から食料を買い付けるための資金が必要です。でもターナー帝国は特産品に恵まれず、決して裕福ではありません。そのことに対する危機感は、歴代皇帝を悩ませ続けたことでしょう。そして今の皇帝陛下もなんとか特産品を作ろうと奮闘されているわけです。
「宝石として認証されるといいですね……」
そう答えながらも、ゲームのあの案内標識から知ってしまった凶作が気になります。ですがいきなり凶作の話を出しても、皇帝陛下は困惑するだけでしょう。
まずは……。
セシリオを見て「少し二人で話したいのです」と合図を送ります。セシリオはすぐに気づき、皇帝陛下にこう告げました。
「父上、一通りの説明を受けることができました。周辺にこれといったものはありませんが、そう何度もここへ来ることはないと思うので、ミーチェを案内してもいいですか?」
「ああ、構わない。三十分後にここに集合し、帰るとしよう。シャールもソフィーと散策するといい」
こうして護衛の騎士を連れ、周囲を散策することになりました。
護衛の騎士とは、会話が聞こえない程度の距離をとっています。そこでセシリオに、先程見た案内標識の件を打ち明けたのです。
「なるほど。時折ミーチェが宙を眺め、思案顔になるのは、その案内標識のせいだったのですね」
「はい、そうなんですよ。ここしばらく表示されず、ここがどんな世界なのか忘れそうでしたけどね……」
どうやらあの案内標識は、セシリオでも見えていないようです。それでも私の視線の動きで、何かに気づいていたのは……さすが頭脳明晰なセシリオですね。
「ゲームに基づく小説の世界となれば、ゲームの要素もふんだんに取り込まれているのでしょう。そして確かにこれまでの話を聞くと、そのイベントに参加することは、大きなリスクに思えます。それに他国の王族の攻略ルート……。そのようなものが解放されても、困ります。わたしと静江さんは、既に婚約しているのですから」
いつも落ち着いているセシリオが、こんなことを言い出すので、驚いてしまいますよ。
これは「ジェラシー」でしょうか。
なんだか歯がゆくなってしまいますね!
「凶作については、何が原因なのか分からないと、対策を立てにくいですね。案内標識で、そのあたりの情報を得ることは可能ですか?」
「もしイベントを開始させれば、もう少し詳しい情報を見ることができるかもしれません」
ハッとした表情のセシリオが即答します。
「それはダメですよ、静江さん!」
「ええ、イベントは始めるつもりはありませんよ」
そこで腕組みをしてしばし考え込んだセシリオですが、すぐにこう言いました。
「凶作自体を防ぐことは難しいかもしれません。現時点で農家から凶作につながる陳情がされているかというと……わたしは聞いていません。ですが凶作への備えはできるでしょう。備蓄の食料を増やす。わたしから父上に一度話をしてみます」
「ありがとうございます、セシリオ!」
そこでふと気づくと、周囲にある木々のいくつかは幹に穴があり、そこから何かが流れたような筋が残っています。
「セシリオ、この辺りの木は病気なのですか?」
私の問いかけにセシリオは「ああ」という表情になり、答えを教えてくれます。
「この辺りは春先になると、キツツキや他の多くの鳥が集まります。キツツキは木に穴を開け、樹液を飲んでいるようです。穴を開けるのはキツツキ。そこへ他の鳥もやってきて、その穴から樹液を楽しんでいるようですよ」
「なるほど。では木が病気ではないのですね。鳥たちが好んで集まるなんて、よほど美味しい樹液なのかしら?」
そこで私は重要なことを思い出します。
この辺りに生えている木が、何の木であるかを。
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【お知らせ】第四章完結
『森でおじいさんを拾った魔女です
~ここからどうやって溺愛展開に!?』
https://ncode.syosetu.com/n4187jj/
まるで大人のおとぎ話。
おじいさんの正体は実は●●●で
引っ込み思案の魔女は、彼と共に旅に出て……。
遂に始まる決戦とその結末。
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