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雪花翡翠

　翌日からの日々は、皇妃と帝都を満喫プランでした。

　国王陛下ほどではなくとも、皇妃も公務はあるのです。

　貴族のマダムや令嬢とお茶をすることさえ、公務の一つ。

　それでも私達のために時間を作って下さる皇妃は、本当に素晴らしい方だと思います。

　こうしてシャールと私は、帝都を代表する劇場から美術館、公園から庭園、オペラや演劇、そして隠れた名店レストランやカフェも大満喫できました。

　すると……。

　その日は久々の家族水入らずの夕食会です。

　私は皇妃からいただいた雪花翡翠（せっかひすい）の宝飾品を気に入り、夕食会では好んで身に着けていました。最初はミッドナイトブルーのような濃紺系のドレスに合わせていたのですが、スカイブルーやアクアブルーにも合うことに気付いたのです。

　セシリオは自身のアイスブルーの髪にあわせ、スカイブルーやアクアブルーといった水色系統の衣装を着ることも多かったので、以後はそういった色のドレスに合わせ、喜んで雪花翡翠のネックレス、イヤリングや髪飾りをつけていました。

　そこに気づいた皇帝陛下がこんな提案をしてくれたのです。

「ミーチェは雪花翡翠が気に入ってくれたようだね。なかなか採掘できないが、長い冬も終わりに近い。冬の間、雪花翡翠探しは中断させているが、つい先日、採掘作業が再開している。見に行ってみるかい？」

　雪花翡翠探しということは、山に向かうことになります。

　これまで帝都内を皇妃にしっかり案内いただいたので、山を見ることができるのは、それはそれで楽しそうです。ここは「ぜひ、お願いします！」と応じていました。

　私のこの反応を見た皇妃とソフィーは、とても好反応です。

「ではピクニックも兼ねて、次の日曜日に山へ行きましょう。雪解けも始まり、アスパラガス、ベアラオホ、タンポポを摘むこともできますからね」

　アスパラガラスは野山に自生しており、ベアラオホは話を聞くに、前世で言うなら行者ニンニクのようです。スープやサラダ、ソーセージに混ぜるハーブとしても使われるとのこと。タンポポも同じように、サラダで食べ、タンポポコーヒーとして飲まれていると聞き、思い出します。タンポポコーヒーはノンカフェインなので、正太郎のお嫁さんが妊娠した時にプレゼントしましたよね、と。

「山には可愛らしい雪ウサギがいますし、今の季節だとリスたちも冬眠から目覚め、その姿を見せてくれます！」

　ソフィーはそういった小動物が好きなようで、彼らを見に行くことができると喜んでいます。そんなソフィーを見てシャールも嬉しそうで「ソフィーが見たいなら、僕も喜んでついて行きます！」と既に愛妻家の兆しです。

　こうして次の日曜日、国王陛下夫妻を含めたみんなで、山へ向かうことが決まりました。

　この日の夕食会を終えると、セシリオは私を部屋までエスコートしてくれながら、こんなことを教えてくれます。

「わたしの家族が野菜好きなのには理由があります。子供の頃、わたしはまだ前世の記憶がなく、普通にこの世界の子供として成長していました。その結果、ソフィーもわたしも、いわゆるぽっちゃりな体型だったのです。子供ですから、その後の成長で体型は変わったかもしれません。ですが前世の記憶が覚醒して、自分の姿を見て驚きました。このままでは子供の頃から成人病のリスクが高まりそうだと」

　てっきり今の姿が幼くなったセシリオの子供時代を想像していたのですが、どうやらそうではなかったようです。

「そこで野菜を食べたいと両親に頼み込みました。こんな野菜料理なら美味しいとレシピを伝え、料理人に作ってもらったのです。するとわたしの家族は皇族であるにも関わらず、ハーブも含め、野菜好きになりました。結果として、皆、健康的な体型を維持でき、生活習慣病とは無縁で生きることができています」

「それは前世知識の有効活用ですね。私も少し食べ過ぎてしまった時は、ラジオ体操をしています。ポマードやエドマンド、シャールにも教えたんですよ」

「！？　ラジオ体操を彼らに教えたのですか！？　なんとも静江さんらしいというか……」

　セシリオがクスクスと笑っています。

「では明日、わたしとラジオ体操しますか？」

「！　でもセシリオは毎朝剣術の練習では？」

「ミーチェが目覚める頃には終わっています。部屋を訪ねますよ」

　私が目覚めた頃に、セシリオが部屋に来る……そうなりますと寝間着で「おはようございます」になってしまいます。それは皇族に対して失礼になりますし、この世界のマナーとしてもいかがなものか、です。

「寝間着のままで構わないですよ。春が近いとはいえ、まだ朝晩は冬の寒さです。庭に出てするつもりはないので、部屋でラジオ体操するのでよいかと」

　これには胸をなでおろすことになります。

　ですがセシリオと朝からラジオ体操だなんて！