心臓がドッキリちゃんです。
「遠路はるばるよく来てくださいました、レオンハイム公爵令息、シェリーヌ公爵令嬢。私がセシリオとソフィーの父であるアルゴル・シド・ターナーだ。こちらが妻のレダ・メア・ターナー」
セシリオとソフィーのお父様であるターナー皇帝。碧みを帯びた銀色の髪をしており、それは二人にそっくり。でも顔つきは少しセシリオとは違います。皇帝は一重の切れ長の碧眼。瞳の色が違うだけで印象が変わります。そして鮮やかなコバルトブルーのセットアップにシルバーの毛皮のマントを羽織ったその姿は、大変堂々しているんです。
「レオンハイム公爵令息、シェリーヌ公爵令嬢、初めまして。お会いできてうれしいですわ」
ターナー皇妃はシルバーブロンドで、瞳は二重で銀色。ソフィーとセシリオに似ています。二人とも、お母様似の顔つきだったのですね。そしてターナー皇妃は別嬪さん! 皇帝陛下に合わせたコバルトブルーのドレスも、とてもよくお似合いです。
「長旅で疲れただろう。まずは体を休めるといい。夜は家族だけでの夕食会をする予定だ。そこでゆっくり話そうではないか」
ターナー皇帝はセシリオ同様、優しい方です。
今の時間なら、そのまま昼食を共にとなってもおかしくないのですが、シャールと私がリラックスできるよう、夕食会まで時間をくださったのですから。
やはり長旅を終え、皇帝陛下夫妻に謁見するというのは、緊張するもの。自分が思っているより、神経を使います。よって謁見の後は、少し仮眠をとらせてもらいました。目覚めた後は着替えをして、セシリオ、ソフィー、シャールと四人で昼食。その後は宮殿を案内してもらうことになりました。
「では次は少し庭園を見て、そのまま温室へ案内します。短い時間ですが、外に出ますので」
そこでセシリオが合図を送ると、随行していた侍女がソフィーと私にお揃いのアイスブルー色のケープを差し出してくれます。首元にふわふわの白いファーもついているとても可愛らしいデザイン。こういったものをあらかじめ用意してくれるセシリオは、本当によく気が利くと思います。
「ソフィー、前は僕が止めましょうか」
「ありがとうございます、シャール様」
ソフィーと向き合ったシャールは、ケープの前の丸いファーの飾りのついたリボンを結わいてあげています。金髪で碧眼のシャールは、シアン色のセットアップを着ており、やはりプリンスみたいに見えますね。アイスブルーの髪をおろし、真っ白なドレス姿のソフィーは、なんだかウェディングドレスを着ているように見えます。愛らしいプリンセス。
本当にお似合いの二人ですね。
「ミーチェ。……その、わたしも結わきましょうか、ケープのリボンを」
私がじーっとシャールとソフィーの様子を見ていたので、セシリオは何か勘違いしたようですね。
「セシリオ、お気持ち、ありがとうございます。でもちゃんと自分でできますよ」
するとセシリオは大変秀麗な笑みを浮かべるとリボンをあっという間に結わいてくれました。そして耳元に顔を近づけ「静江さん。あなたは本当に昔からしっかり者です。でも時には甘えてくださっていいのですよ」なんて言うのだから……!
またもや心臓がドッキリちゃんです。
せっかく孫が導いてくれた世界。長生きしたいと思っているんですよ。でもセシリオがこんなことばかりしていたら……。私の心臓が大変なことになりそうです。
「では準備はいいですかね、参りましょう」
まったく坊ちゃんは私の心臓のことなど気にすることなく、いつも通り優雅にエスコートして歩き出しました。
まあ、実のところ、精神年齢はおばあちゃんですが、体は若いわけです。
素敵な婚約者にいくらドキドキしても問題ないんですけどね!
◇
「リリーさん、この宝石は!?」
「こちらはお嬢様が宮殿見学をしている間に届けられました。なんでも代々皇妃から皇太子妃に受け継がれるものだそうです。今晩の夕食会にぜひ身に着けてくださいと、皇妃様付きの侍女から言われましたよ」
宮殿見学を終え、最後に図書館を見て、その後、喫茶室でお茶を楽しみました。それが終わり、部屋に戻ってビックリです。
ターナー皇妃から大変素敵なネックレス、イヤリング、髪飾りのセットが届けられていました。
「この宝石は初めて見たけれど、リリーさんはご存知?」
透明なガラスの中に、雪の結晶を閉じ込めたような、見たことがない宝石が使われています。私は初めて見たのですが、とても美しく、一目で気に入ってしまいました。
「皇妃付きの侍女が教えてくださりました。雪花翡翠と言われ、ターナー帝国の山岳部で、稀に産出する鉱石だそうです。数も少なく、国際的に宝石とは認められていないそうですが、皇族の間では大切に扱われているそうですよ」
雪花翡翠なんて、前世でも聞いたことがありません。
きっとこれはこの乙女ゲームの世界ならではで存在する宝石なのでしょうね。
「この宝石が際立つのは、ミッドナイトブルーのドレスよ。ウエストから裾にかけ、銀粉を散らしたようなドレスがありましたよね? リリーさん、夕食会はそのドレスを着て行きます」
「かしこまりました! あのドレスは身頃がレースでシンプルに飾られ、宝飾品でインパクトを出すタイプです。このネックレスの美しさが際立つと思います。立襟のノースリーブで、ロンググローブを合わせるデザインですし」
こうして私はドレスに着替え、皇妃から贈られた素敵なネックレスとイヤリングを身に着けます。髪も綺麗にまとめ、同じく雪花翡翠がついた髪飾りで留めると、完成です。
そこへセシリオが迎えに来てくれました。