前向きにね、どんなことも。
「シェリーヌ公爵令嬢、宮殿が見えてきました」
セシリオの言葉に馬車の窓から身を乗り出しそうになります。
王都を出発してから約半月。
遂にターナー帝国に到着し、そしてさらに一日かけ移動し、帝都アリアスに入りました。そこからまたしばらく馬車を走らせ、見えてきたのが宮殿です。
帝都アリアスは整備された街。
馬車道も歩道も街灯も揃い、区画整理もきちんとされ、建物も立派なのですが、その背後には山並みが見えています。これは何でしょうか。前世で言うなら大都会東京のビル群の背後に山並みが広がっているような、不思議な感覚を覚えます。自然と人工物の融合と申すのでしょうか。
「宮殿の後ろに見える山々が、アリアス連山ですか?」
「ええ、そうなんです。今は枯れ木ばかりですが、三月になれば新芽も出てきて、小さな花も咲かせます」
「枯れ木ですが、雪化粧をしており、それはそれで風情がありますよね。それに花が咲く……。何の木なんですか? 桜……もしやアーモンドの木ですか?」
するとセシリオは「違います」と首を振ります。
「多くが楓の木です。北東に位置するこの帝国では、楓の木が多く自生しています。夏になると、青々とした緑で覆われ、アリアス連山の見た目もガラリと変わりますよ。ベストシーズンは秋。黄金色や橙色に紅葉し、鮮やかで綺麗です」
「まあ、季節を通じ楽しめるなんて! 素敵ですね」
するとセシリオは少し心配そうに私を見ました。
「シェリーヌ公爵令嬢。わたしは皇太子という身分で、いずれこの国を治めることになります。ですがここは大国というわけでもなく、良くも悪くも目立たず、地味な国です。……今さらですが、この国で生きて行くので、大丈夫でしょうか?」
「まあ、坊ちゃん、何を言い出すのかと思ったら! 私は前世では田舎育ちですよ。むしろこう言った大自然がある方が落ち着きます。それに地味な国……分かりませんよ。どんなお宝が眠っているか分かりませんからね。私はこれでも王太子妃教育を受けていましたから、皇太子妃教育は大幅短縮されるだろうと聞いています。時間がありそうなので、この国が今より素敵な国にならないか、模索してみますよ」
前世でも決して裕福ではなかったのですが、毎日が楽しく感じられたのは、“いいところを見つける”と“自分でいいところにしてしまう”を実践していたからです。
狭いながらも楽しい我が家にできるかどうかは、自分次第ですからね。
そして私はそのための努力、結構楽しんでできちゃうんですよ。
夫に先立たれた後の、六畳一間での一人暮らし。
何にもない部屋で寂しくないのかと思われてしまいますが、そんなことありません。
掃除も楽ですし、何でもすぐ取ることができて楽なんですよ。
前向きにね、どんなことも。
気持ちの持ち方一つで、世界は変わって見えるんですよ。
この持論を私が話すとセシリオは、それは爽やかな笑顔になりました。
「やはり静江さんのそういう前向きなところが……わたしは好きです」
「まあ、坊ちゃん。海外暮らしが長いから、お上手ですね!」
「そんな風に茶化さないでください、静江さん」
会話はね、おじいちゃんとおばあちゃんなのに。
二人とも見た目はまだ十代。
その姿でこんな風に話して、そして坊ちゃんは――。
ぎゅっと隣に座る私を抱きしめるんですよ!
西洋文化の方は、スキンシップが得意ですからね。
でも昭和の代表のような私には、心臓に悪くて大変です!
「坊ちゃん、心臓発作が起きそうです」
「大丈夫です。前世と違い、まだまだ若いのですから。そのままわたしにドキドキしていてください」
こんなことを言われたら……。
でもそうですね。
健康そのものです。
これだけの長旅をできてしまうくらい。
「そう言えば坊ちゃん……セシリオ皇太子様」
「何でしょうか、シェリーヌ公爵令嬢」
「ターナー帝国の皆さんは、格式ばった方々が多いですか?」
「それは……どういうことでしょうか?」
そこで私はお互いの呼び方について提案しました。
「なるほど。わたしはシェリーヌ公爵令嬢のことをミーチェとお呼びしていいのですね?」
「はい。爵位込みで名前を呼ぶのは堅苦しいでしょう? 私もできればセシリオとお呼びしたいのですが」
「ええ、構いませんよ。ただ、公の場では、敬称をつけていただくことになります。ミーチェ殿下、セシリオ殿下、というように。帝国では宰相が、特に伝統を重んじる、少し古式ゆかしい方なので」
なるほどですね。公の場では敬称をつける。
問題ありませんね。
セシリオの提案を快諾しました。
「でも……嬉しいですね。お互いを名前で呼べるのは。家族になったと実感できます」
「しばらくは恋人同士ですよ」
私の言葉にセシリオの顔が輝きます。
「ミーチェ、帝都でもデートをしましょう」
「ええ、勿論ですよ。美味しいスイーツのお店へ行きましょう」
そんな会話をしていると、ついに宮殿の敷地内に入りました。
お読みいただき、ありがとうございます!
な、なんと!
約110万冊の中から「今日の一冊」に
『婚約破棄を言い放つ令息の母親に転生!
でも安心してください。
軌道修正してハピエンにいたします!』
上記作品をご紹介いただきました……!
なろう人生初です!
https://syosetu.com/issatu/index/no/221/
活動報告でもご紹介しています!
Xでも紹介しています。
筆を折らず書き続けてよかった……(感涙)
これも読者様の応援のおかげです。
いつもありがとうございますヾ(≧▽≦)ノ