マッスル・フレンド
「僭越ながら殿下、それは誤解です! 僕とシェリーヌ公爵令嬢は、マッスル・フレンドに過ぎません。あくまで体操と筋肉トレーニングを通じ、お互いに体を鍛えていただけです。それに自分は、騎士になることを目指しています。これから仕える王家に、背くようなことは断じてしません!」
マッスル・フレンド!? これは初めて聞きましたが、確かにその通りです。さらにポマードも続けます。
「殿下、自分も同じく、シェリーヌ嬢とは、ヒーロー同盟を組んでいるに過ぎません。シェリーヌ嬢は、自分に正しく生きる道を示し、導いてくれただけです。学園でもいじめが減ったことは、生徒会長である殿下が、一番分かっているではないですか。シェリーヌ嬢と自分は、恋愛関係ではありません!」
これには広間にいる卒業生たちも、ポマードに同意を示しています。特にポマードのおかげで、いじめから助けられた生徒達は、彼のそばへと静かに移動してきていました。
この様子と、二人の真摯な言葉を受け、ジョナサンは「うっ……」と腰が引けています。何をやっているのだかと、ハラハラしてしまいますが、ここは私も身の潔白を伝えないとなりません。
「殿下、二人の言う通りです。宮殿の訓練所での運動は、見習い騎士の方々も多数参加していました。彼らが証人です。それに今、ポマード様の周囲にいる令息の皆様も、私とポマード様の身の潔白を、証言してくれることでしょう」
私の言葉に、ポマードの周囲の令息たちは、力強く頷いています。するとヒロインが、ジョナサンの耳元で、何か囁きました。ジョナサンはあの“イケメン”の顔を半泣きにしながら、それでも口を開きます。
「もう無理はおやめなさい、ジョナサン」と声をかけたくなるのを堪えます。
「ミーチェは、わたしが剣術倶楽部の練習試合に来るように頼み、快諾したのに、見に来てくれませんでした。代わりにわたしに声援を送ってくれたのは、このシカリアーナ・ララック子爵令嬢です」
それに関しては、確かにその通りです。謝罪の言葉を、口にしようとしましたところ……。
「恐れながら、殿下。その点については、私がこの場で証言させていただきます。私は王立リットモンダー学園教師、キーファース・サルベールです」
名乗りを上げてくださったのは、あの熱血教師!
「殿下が言われている剣術倶楽部の練習試合があった日、ミーチェ・シェリーヌ公爵令嬢は、学園内に来ていました。殿下を応援するため、競技場へ向かわれていました。ですがそちらのブラックくん、ユーレイくん、ロースくん、ジャーオくんこの四人が喧嘩しているのに、気づいてしまったのです」
ユーレイ、ロース、ジャーオ、この三人も卒業生なので、当然、この会場に来ていました。熱血教師に名指しされ、三人とも首を垂れています。
「シェリーヌ公爵令嬢は、連れていた侍女に、私のことを呼びに行かせ、ご自身は喧嘩の仲裁を始めました。さらにユーレイくん、ロースくん、ジャーオくんの三人が、いじめを行っている事実を突き止め、そんなことをしないよう、説得してくださったのです。殿下の練習試合を観覧できなかった件について、シェリーヌ公爵令嬢に、非はありません」
すると今度は、少し大きな声が、上がりました。
「殿下」
声の方を見て、皆、ビックリしてしまいます。それは国王陛下の弟である、レオンハイム公爵です。そこで私はあることを思い出しました。あの時は完全に失念しておりましたが、そのことを、レオンハイム公爵がお話しくださりました。
「殿下、我が息子であるシャール・マール・レオンハイムは、本を読み、自身で物語を紡ぐことを好む、大変大人しい性格をしています。よって学園でいじめを受けていたことを、わたしに一切話しませんでした。ですが卒業をするにあたり、二人の恩人にはわたしからも礼を伝えて欲しいということで、昨日、いじめを受けていた事実を打ち明けられました」
そこでレオンハイム公爵の視線を向けられたユーレイ、ロース、ジャーオは俯き、震えています。レオンハイム公爵は、エドマンドのような偉丈夫です。蛮族の侵入があった時、国王の命令でそれを撃退した猛者。彼を怒らせてしまうと、どうなるのか……。
ユーレイ、ロース、ジャーオは、シャールの気が弱いところにつけ込み、親には話さないだろうと思っていたのでしょう。明日、彼らの両親が血相を変え、レオンハイム公爵家へ訪問する姿が、頭に浮かびます
「殿下、僕を、僕のことを、シェリーヌ公爵令嬢とポマードくんが、助けてくださいました。練習試合に行けなかったのは、僕のせいです。どうかお許しください」