地獄列車
金山駅はデカい。みさえのおけつよりも何倍もデカい。
でも、迷子にはならない。そういうデカさじゃないから。
言ってみればハリボテだ。いろんな道が入り組んでいて訳が分からない東京の地下鉄のようなものではなく、ただただデカい建物。建物内のほとんどが体育館のような、何もない広い空間だ。
改札を出て、その何もない空間を横切⋯⋯らずにこっち側を歩いていく。
地下鉄へ続く下りのエスカレータが激激混んでいるが、右側がガラ空きなので乗ってやった。当然歩かない。立ち止まってくださいとジャニーズの誰かも放送で言ってるんだから。
金山駅の地下鉄はビックリするくらい簡単だった。しかも、ホームに着いて数十秒で電車が来た。グッドグッドタイミングだ。
電車に乗り込み、水を1口飲む。落ち着く。このまま3駅行くだけだから楽勝だ。
そんなことを思っていると突然、苦味の強い臭気が鼻を掠めた。アンモニアのツンとした感じも混じっている。
周りを見てみると、1人その臭いの元らしき人が乗っていた。私の真後ろに、すぐ近くに立っていたのだ。
ボサボサ髪に変なシミのついた上下の服、そしてサイズの合っていない泥だらけの靴。間違いない、こいつだ。
私はこの時までこういう人達に対する差別心は1ミリも持っていなかったが、実際に近づいてみると臭いだけで超アウトだった。
まるで垢と小便を煮詰めて服に塗りたくっているかのような臭いで、意識せずとも顔を顰めてしまうほど強烈だった。
私は必死に鼻を塞いだ。
小学校の頃の恩師であるホリ先生がいたら「それはいじめですよ」と私をたしなめるだろう。
だが、私は鼻を塞ぐのをやめない。そんな次元ではないのだ。鼻を塞がないと生命の危機に瀕する可能性がある、そんなレベルなのだ。
だいたいなんで臭いものを臭いと言ったらいじめになるんだ。垢ションベンボールを投げてきたのはあいつじゃないか。責めるなら投手を責めろと言いたいものだ。
やっと1駅目に到着した。時刻表上では1分と書かれているが、体感では15分を超えていた。時間の流れというものは楽しいことは早く、つまらないことは遅く、地獄の状況は15倍遅く感じるのだ。
聞いたことのない駅だけど、ここで降りてくれ。じゃないと私が死んでしまう。それか吐く。
しかし、降りる気配は全くなかった。ただ私の傍に立ち、無限に凝縮垢ション弾を撃ち込んでくるのみだった。
私は周りの乗客に目で助けを求めた。
私の潤んだ目を見た乗客たちは「?」という顔をするだけで、垢ションを連行してはくれなかった。近くにいる私にしか分からないのだろうか。
そして次の駅。ここも恐らく1分ほどしか乗っていなかったが、今度は15分どころではなく、無限に感じた。冗談誇張嘘偽りなく、本当に死ぬかと思った。ここ数年でトップ3に入るレベルの苦しみだった。その場から逃げ出したくてたまらなかった。
結果、この駅で降りた。
本当に無理になったからだ。
もう、本当に本当に本当に無理だった。これ以上垢ションエアーを肺に入れてはいけないと思った。この時、空気が自由に吸えないって、こんなに辛いことなんだと改めて思い知らされた。
椅子に座って次の電車を待つ。
ここはここで変な臭いがするが、さっきの垢ションよりは何倍もマシだった。でもなんで地下鉄っていろんな変な臭いがするんだろうか。
さすが都会、ものの5分で次の電車が到着した。ウキウキで乗り込むと、2メートル近くあるスキンヘッドの男性がドアのそばに立っていた。腕にはカッチョイイタトゥーが入っている。ぶっちゃけ怖かった。冗談の通じなさそうな、いや、話の通じなさそうなハルクのような男だったのだ(体は緑色ではない)。
数分間怯えて電車に揺られ、ようやく矢場町駅に到着した。
さっきの話だが、中には「そういうこと言ったらダメだよ」「差別だよ」「タトゥーなんて海外では当たり前だよ」という意見の人もいるだろう。
うん、そうだね。そうかもしれない。
でもね。
怖いものは怖いんだよ!!!!!!
あとここ日本なんで。矢場町は日本なんで。海外では当たり前とか言って押し付けてくるんならお前もノーブラで出歩け。以上!
ちなみに私もノーブラだよ。
え? 男だよ? それが何?
さて!!!!!
矢場町駅着いたよ! 地上行くよ!