▲ 1999(平成11)年11月15日 火曜日 ▲ 日本的洗礼
▲ 1999(平成11)年11月15日 火曜日 ▲
ソロモン・グランディは火曜日に洗礼を受けた。僕も詳しいわけでは無いが、洗礼というのは赤ん坊を水に浸すキリスト教の宗教的な儀式だったはずだ。この歌が出来たイギリスでは一般的なイベントなのかもしれないが、日本人の僕からしてみれば宗教的儀礼なんて最も縁遠いものであろう。
ちなみに、僕の家は浄土真宗の西本願寺だ。これは、妹の葬式の時に祖母が教えてくれた。と言っても、知っているのは「南無阿弥陀仏」ってフレーズぐらいで、とても仏教徒と名乗れるほど教義に詳しいわけではない。そのことは、幼いながら仏教徒である僕たちが神社が運営する保育園に預けらていたことからも明らかだ。
保育園では、正月にこそ保育園の裏にある神社(あるいは、神社の裏に保育園があると言った方が正確かもしれない。)に皆で参ったものだが。バレンタインデーにはチョコレートが振舞われ、夏にはお遊戯で盆踊りを舞い、クリスマスには父兄がサンタに扮して子供たちを楽しませた。あらゆる宗教的イベントをその場のノリで楽しむのは、宗教に寛容、ないし無頓着な日本人故であろう。
親戚が集まる宴席となれば、思い出話に花が咲くものだ。酔った母は、本棚から僕の写真が納められたアルバムを取り出してきた。開かれたページには、幼くあどけない顔をした僕が袴姿で映っている。右手には千歳飴と書かれた縦長の紙袋、その背後には見慣れた神社の拝殿が見える。写真の日付は、「1999.11.15」。僕の七五三の時の写真だ。
スマホで当時のカレンダーを調べると、その日は火曜日だった。僕はしばし考え込む。七五三。伝統的な衣装をまとい、長寿を願う飴を食べ、神社に詣でるとなれば、それは宗教的儀式と言って差し支えはないはずだ。ならば僕は、ソロモン・グランディよろしく火曜日に日本的な洗礼を受けたと言っても過言ではあるまい。
僕は、満足げにうんうんと頷いた。月曜に生まれ、火曜日に洗礼。僕とソロモン・グランディにおける人生の節目となる曜日の一致なんて、ただの偶然に過ぎないことはわかっている。それにしたって、一致してないよりはいいじゃないか。だって、そのほうが今後の人生に期待が持てるだろう。
が今後に期待が持てるだろ。