不老不死の彼女が生きる理由
昔々、頭に二つの角の生えた「織」という女性がいた。彼女は村の人間に気味悪く思われた。いつの日か、彼女と目を合わすと、不幸になるという噂が広まるようになった。
村の人間は人間の近寄らない坂の上に牢屋を作り、そこに彼女を閉じ込めた。村のみんなは彼女の噂を恐れ、彼女に食べ物を運ぼうとしなかった。
しかし、そんなある日、馬に乗った商人の男が彼女の牢屋に通りかかった。彼女を不憫に思った商人は、自身の昼食であるおむすびを分け与えた。
それから毎日欠かさず、その商人は歩いて、坂を登って、彼女におむすびを運び、彼女と話すようになったあ。
そんな日々が三十年ほど続き、商人は年老いた。しかし、彼女は歳を全くとっていなかった。そんなある日、彼女が商人の男に問いかける。
「あなたはなぜ物を売りに行くときは、馬を使っているのに、このおむすびを運ぶ時は、歩いて運ぶのですか?」
「それは、君のために運んでいるって言うことを一歩一歩踏みしめていきたいからだよ。商品を売っている時は、特に何も感じず、生きるために運んでいるけれども、君におむすびを運んでいる時は、幸せを感じているんだ。だから、この幸せを一歩一歩踏みしめていたいんだ。」
彼女はそれを聞いて、ぼろぼろと泣いてしまった。
「私、村の人に目を合わすと不幸になるって言われて、この牢屋に閉じ込められてしまったの。でも、あなたはそんな私を幸せだって言ってくれるの。」
「なあ、よくこの顔を見てくれ。商人だからたくさんの人を見てきたけれど、自分の顔よりも幸せな顔は、見たことがない。」
涙を拭いて、彼の顔を見てみると、とても幸せそうな笑顔だった。顔には深くよこじわが刻まれていた。
「私ね、実は、このおむすびを食べなくても大丈夫なの。私はあなたに出会う一年以上何も食べないで生きてきたの。この角があるからなんとなく感づいていたけれど、私は普通の人間じゃないみたい。」
「知っていたよ。君と目を合わすと不幸になることも、一年以上何も食べていないことも、人間じゃないことも。
それでも、初めて君にあった時、君は悲しそうで、寂しそうだった。だから、君を助けたいと思ったんだ。
でもどうすれば、助けられるか分からなかった。だから、君に毎日このおむすびを運ぶことにしたんだ。君はもしかしたら、年を取らなくて、死なないのかもしれない。
だから、今までも今からもなぜ生き続けなきゃいけないんだって思う時があると思う。でも、忘れないでほしい。
年老いて、すぐ死ぬ人間が一生を使って、君のために生きたってことを。」
私は彼が死んでしまってから四十年後、台風で牢屋が壊れ、私は牢屋から抜け出した。
そこから三百年ほどたった今、私は生き続けている。そして、これからも生き続けるだろう。
恒河沙名義の「ぼっちはぼっち」の中の話を少し変えて、投稿しています。もし、この作品を面白いと思って下さったら、ぜひ、「ぼっちはぼっち」を読んでくださるとうれしいです。