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下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞

馬鹿がつく天才は高いところがお好き

作者: 夏月七葉

「無理ですっ!」

 学園内で最も高い時計塔の天辺で、私は箒と一緒に手摺りにしがみついた。風の音に負けじと叫んだ私の隣で、一学年上の先輩が腰に手を当てて仁王立ちする。

「そんなことでは、飛行魔法は修得できないぞ。そもそも、教えて欲しいと申し出たのは君ではないか」

 確かに、彼に飛行魔法の教授を願い出たのは私である。来週に試験があるというのに、飛行魔法が苦手な私は、未だに数センチほど浮くのがやっとなのだ。

 だから、学園で天才と名高い先輩に魔法のコツを教わろうと思ったのだが、まさかこんな力業でくるとは思いもしなかった。

「ほら、一度やってみなさい。ひょいっとそこから飛び出るだけではないか」

「まだまともに魔法が使えないんですよ!? 死にます!」

「使えないからこそではないか。実際に飛ばなければならない状況に陥れば、きっと真の力を発揮できるだろう。それに、地面に叩きつけられる前にこの僕が助けるから、大丈夫」

「そ、それでも、無理なものは無理です!」

 一応、手摺りの間から下を覗き込んでみたが、地面は想像していたよりも遥か下にあった。目が眩んで、一層腕に力が籠る。こんな場所から飛び降りるなんて、自殺行為だ。

 天才の考えていることは解らない。いくら彼と一緒にいられる口実とはいえ、こんなことを頼むのではなかった。

 よくよく考えてみれば、彼は暇さえあれば校舎の屋上に行ったり、魔法で雲の上まで飛んだり、高いところが好きなのだった。この現状を想像するまでいかなくとも、近い状況になることは予想できたはずだ。よく考えもしないで彼の許へ行った過去の自分を呪いたい。

 頭上から降ってきた溜め息に、顔を上げる。憂いを帯びた彼の横顔が美しい――なんて、こんな時にそんな風に思ってしまうなんて、惚れた負い目だろうか。

 すると、不意に彼が屈んで、私の顔を覗き込む形になる。

「君は、空を飛べるようになりたいんだろう?」

 彼の顔が間近に迫る。私は眩暈を覚えて、つい腕の力を緩めてしまった。重力に逆らうことなど到底できるはずもなく、身体が真っ逆さまに落ちていく。

 短い人生だったな、と走馬灯が過ろうとした時、何か柔らかいものに抱き留められた。そっと目を開けてみると、先ほど離れたばかりの先輩の顔が再び目の前に。ぽかんとする私に、彼は肩を竦めてみせた。

「全く。助けると言っただろう?」

 そう言う彼の頬が仄かに赤かったことに、その時の私は気づかなかった。

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