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第56話 聖女のトラブルバスター3

 ビーンボリエルはあの後すぐに滞納分を払ってくれた。


 払うお金があるのに払わなかったので、悪質だという事でもう一発ブッ叩いておくアフターサービスも付けておいた。


「じゃあ次に行こう。」


 今度は別棟の集合住宅のようだ。


「こんにちはー。ユメカナワナエルさん、大家ですけど。」


 ノックをしても出て来ない。もしかしてお留守?


「ユメカナワナエルさーん。大家でーす。」


 少し待つと、面倒くさそうにエキセントリックな髪型の怪しい男が出て来た。


 ウニのように髪があちこちに尖っている。


「大家さん? 何の用っスか?」


「家賃の支払いを頼むよ。」


「無いっスよ。前にも言ったっスけど、俺は絶対にビッグになって家賃なんてドーンと一括返済してやりますって!」


 うわぁ……。


「それっていつだい?」


「さぁ? でも絶対っス。一度は堕天しちまったっスけど、いつか必ず天使に戻ってゆくゆくは神になるっスから。家賃なんて一括払いっスよぉ!」


 なにそれ?


「ユメカナワナエルさんは天使に戻る為の努力をしてるのかい?」


「はぁ? 何を言ってんスか。俺くらいになれば? そのうち神様が、あの時はスマンかった。もう一回天使に……いや、神になってくれぇぇってお声が掛かるはずっスよ。」


「……はぁ。見ての通り、こんな感じの人だよ。」


 アドンがお母さんを見て溜め息をつく。


「お? おぉぉぉ!! 大家さん! そこの超絶美人姉妹は誰っスか!?」


「こちらはアリエーンちゃんとアリエンナちゃん。アリエンナちゃんが僕の主人で、アリエーンちゃんはそのお母さんだね。」


「え? 魔神の主人って冗談きついッスよ。それにしても美人っスねぇ。」


 この人はなかなか見る目だけはあるみたい。自己評価はズレてるけど。


「どっちか俺と付き合っちゃわない? それとも二人とも付き合っちゃう? 俺ってばビッグになる男だからぁ。二人とも幸せにしちゃうよ?」


 うん。ちょっとこの人は苦手かもしれない。


 お母さんに任せよう。


「えぇ? でも君ってお金ないんでしょ?」


「へーきだって。そのうちすぐに天使に戻っからさぁ。」


「ふーん? それはいつ?」


「そのうちったら、そのうちさ。」


「具体的には何日後? それとも何週間後? どの神様から声が掛かるの? 声を掛けてくれそうな神様は何柱心当たりがあるの?」


「……。」


 あっ。黙った。


「天使に戻る為の試験勉強はしてる? 今年の試験まで、もう一ヶ月きってるわよ?」


「……。」


「有力な神の息子だったりするの? ちゃんとコネもないとダメなのよ?」


 お母さんは何でそんな事知ってるの?


「……俺は。」


「俺は?」


「特にそういうのは無いっスけど、でも……優秀……だから。」


「実績は何かあるの? 人間をたくさん助けたりとか、きちんと正しい道を示してあげたとか、悪い悪魔を退治したり更生させたりだとか。」


「……才能はあるっス。」


「たとえばどんな? 強さってのはダメよ? 天使が堕天したら強くなるのは当たり前なんだから。天使が持っていた力に加えて、悪魔としての能力がプラスされるのは知ってるでしょ?」


「……。」


「そんな寝言ばかり言ってないで働きなさい。それだけ強ければ、どこかの魔神軍に就職出来るでしょ。」


「……戦争とかはちょっと怖いっていうか。」


「それなら、アルバイトは?」


「……働くのはちょっと得意じゃない、みたいな。」


 お母さんの身体強化魔法が出力を増していく。ベーゼブと戦った時よりも明らかに強くなってる。


 あーあ……。怒らせちゃった。


「……あなた、ちょっとこっち来なさい。」


 お母さんはユメカナワナエルの耳を掴んで外へと引っ張って行く。


「いだだだだだだいぃぃ!!」


「シャキッとしなさい!」


「は、はいぃぃ!」


 また近所の人達に見られてる。さっきの騒動の事もあるし、野次馬してる人もいるみたいね。


「そこに正座しなさい!」


「は、はひっ!」


「そんな事でどうするの! 一度堕天した奴がそう簡単に戻れる程天使は甘くないのよ!」


「はい!」


「自分1人も養えないで、どうして私と娘を幸せにできるなんて寝惚けた事が言えるのよ! 馬鹿なんじゃないの!?」


「す、すみません!」


「私の旦那はね……あなたと違ってずっと弱いし力も無いけど、いつ私が冒険者をやめても良いようにって、毎日畑仕事を頑張ってる。私の方が稼ぎは良いのにそれでも文句言わずにちゃんと働いてるの!」


「……。」


「何にもしないでただ待ってるだけのあなたは全然ダメよ! 失格! 0点! クズ! ミジンコ以下! 単なる排泄物製造機よ! もう死んで畑の肥やしになった方が良いわね!」


 お母さん、何もそこまで言わなくても……。


「無駄よ無駄! あなたに吸わせる空気すら勿体ないわ。その上家賃を払わない? 地面に穴でも掘って住んでなさい!!」


「ふ……うぐぅぅ……。」


 泣いちゃったわ。


「泣くな! 働け! 泣いても無駄! 泣いて水分を消費するな! 働いて汗にして消費しろ!」


「う、グスっ……。」


 こんなに泣いている男の人は初めて見たわ。ちょっと可哀想な気もする。


 でも、きっとこの人の為よね……。


「泣くなって言ったでしょ!」



 バチィィィィン!!!




 あ……。


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