第21話 聖女のモノマネ
王女様もセリア様も行ってしまったけれど、キャロルさんも居てくれるし私達は料理をつまみながら楽しもう。
「アリエンナのお母さんの話が聞きたいな。SSSランク冒険者って凄いじゃん! 絶対暴力の魔女って、私は名前しか聞いた事なくてさ。」
キャロルさんは私のお母さんに興味津々のようだ。
「それなら俺が話してやるよ。アリエンナは元々母ちゃんが冒険者だって知らなかったみたいだしな。」
ギャモーの言う通り、お母さんが冒険者だった事を私が知ったのはつい最近だ。
「私も聞きたいのでお願いします。」
「おう。世間で知られている事は一通り分かってるから任せとけ。」
曰く……素手で大岩を砕き、まるで紙のように鉄を引き裂く。魔女の暴力は鉄以上の硬度を誇る魔物の外皮でさえも容易く貫通する。
曰く……一日に千里を駆け抜け、それでも尚疲れを知らぬ。その脚力から放たれる蹴りは小さな山を吹き飛ばす。
曰く……その強大な魔力から繰り出される特級魔法は、あらゆる勢力を撃滅し得る必殺の威力。
魔女が本気を出せば、世界は容易く滅びるであろう……。
「と言われているそうだ。」
何それ? 魔法以外の部分は普通ね。
「まるで魔王みたいだね。」
「おいおい。アリエンナの母ちゃんと魔王を一緒にすんなって。」
「ごめんごめん。」
「アリエンナの母ちゃんと比べたら魔王なんてただの雑魚なんだからよ。」
「へ?」
「絶対暴力の魔女は、魔王を定期的にサンドバッグにしてるそうだ。」
「あっ。そう言えば昔お母さんが……『私が本気でブッ叩いても死なない奴が居て楽しい』って大喜びで帰って来た事がありますね。」
「多分それは魔王の事だろうな。」
「魔王可哀想じゃない?」
「あぁ。可哀想だ。魔王は聖剣以外じゃ倒せねぇらしいが、痛みを感じないわけじゃねぇ。散々サンドバッグにされ、いつも泣いてんだと。」
「ひぇぇ……魔王ってば悲惨。」
お母さんったら。そんなに楽しそうな事を私に黙っているなんて酷いじゃない。
「お母さんが本気でブッ叩いて死なないなら、私が本気でブッ叩いても大丈夫そうですね。今度ストレス解消に魔王をブッ叩きにいきましょう。」
「あっ。」
「ギャモーのせいで、魔王がサンドバッグになる日が増えちゃったんじゃない?」
「魔王スマン。」
ギャモーはどうして魔王に謝ってるの?
不思議ね。
それにしても、先程の話がどうしても引っかかる。
「さっきの話ですけど、鉄なんて柔らかいじゃないですか。紙と比較する意味が分かりません。」
「何言ってんだ? こっちが意味分かんねぇよ。」
どういうこと?
「だって……鉄はすぐにグニャグニャしたり裂けたりするじゃないですか。紙とそこまで変わりませんよ?」
「普通は裂けないよね。」
「そうだな。」
普通は裂けないんだ……私の知ってる鉄とは違うのかもしれないわ。
「それに一日で千里って……まる一日走っていれば普通にその位の距離になりますよね……。」
「普通は一日中走れねぇ。」
「無理だね。」
出来ないの? 二人はきっと持久走が得意じゃないのね。
「あと、蹴りで小さな山を吹き飛ばすのは難しくないですよ? コツが分かれば出来ますって。」
「コツとかそういう問題じゃねぇんだよなぁ。」
「コツが分かっても吹き飛ばないと思う。」
もしかして二人は、足は腕の3倍以上強いって知らないんじゃないかな?
「これは……魔王のサンドバッグ日が追加で決定だね。」
「そうだな。」
どうしてそんなに可哀想だと思うのかしら?
「魔王は悪い奴なんだから、サンドバッグにしても良いと思うんですけど……。」
ギャモーは信じられないと言った表情で私を見ている。
「悪い奴ならサンドバッグにしても良いと思うその発想が怖ぇよ。」
「キャロルさんもそう思いますか?」
「うーん。流石に可哀想かなって……」
良い事を思いついたわ。
「それなら、魔王が可哀想じゃなければ良いって事ですよね?」
「なぁ……今度は一体どんなヒデェ事を思いついたんだ?」
ヒドい事とは失礼な。
「魔王が叩かれるのは当たり前。悪い奴は叩かれて当然。と教えてあげるんです。そのうちブッ叩かれても疑問を覚えなくなりますよ。本人が叩かれて当然だと思っていれば、可哀想じゃないですよね?」
それを聞いた二人は目を大きく見開いたかと思えば、二人で話し始めた。
「ねぇ。アリエンナっていつもこうなの?」
「時々な。悪い奴じゃねぇんだが……ブッ叩くのが好きな奴でよ。」
「こんなに美人なのに……。」
ストレス解消に丁度良いってだけで、別にブッ叩くのが好きってわけじゃないんだけど……
「アリエンナの母ちゃんもブッ叩くのが好きだし、同じくらい美人だぞ。更に言えばもっと過激だ。」
「この親子が居れば世界征服出来そうだね。」
「俺もそう思う。」
そんな事したって意味ないじゃない。さっきから失礼しちゃうわ。
そうだ。王女様の真似をしてみよう。
「さっきからヒドいですね。撃ちますよ? 雷魔法。」
先程、王女様が雷魔法を体に纏っている場面を想像しそれを真似してみた。
魔法は上手く発動出来たようで、私の体にはバチバチと雷が絡みついている。
ナニコレ。格好良い……。
「待った! それはシャレにならん!」
「冗談! 冗談だから! 一級魔法はやめてぇ!」
二人は大慌てで私を止めようとする。
「そんなに慌てなくても……私も冗談です。王女様の真似をしてみました。」
もう。本当に撃つわけないじゃない。
「ほんとか! 約束だぞ! 撃つなよ? な?」
「撃ちませんよ? 雷魔法。初めて使う魔法ですから加減がききませんし。」