現地人貴族の魔法学園記(没)
戒め
「フレア様!起きてください!!今日は魔法学園の入学試験ですよ!!」
「あとちょっとだけ……」
「ダメです!貴族のフレア様が遅刻されたら、旦那様に怒られてしまいます!!」
「チッ」
「舌打ち……」
「仕方ない……行くか」
俺は、レイスバーン王国 フィーテル伯爵家 次男 フレア・フィーテル。15歳になると、貴族の子供は皆、魔法学園に入学しなくてはならない。
正直に言えば面倒くさいが、他の貴族と交流を持っておかないと、後々大変なことになる。
入学試験なので、私服でいいのだが……。貴族として、正装で行けと言われている。合格したら制服になるのだから、ここで見栄を張ってどうするんだか。
入学試験は、筆記試験と魔法試験の両方を合格しなくてはならない。魔法力が高ければ、筆記が酷くても合格になる場合があるのだが、逆はない。なので、ほとんどの貴族は魔法の訓練をしてきた。俺は……してないが、問題ない。
「フレア様?お着替えは終わりましたか?馬車が来ていますよ」
「馬車で行くのか!?そんなに遠くないだろ!」
「最初だけですから。さぁ、1階に降りましょう!」
「ご飯は……」
「パンとスープだけ食べていきますか?」
「食う」
「ご用意は済んでおります」
パンを食ってスープを流し込み、馬車に乗った。荷物は筆記用具だけ持てばいいので、アイテムボックスの中に入れておいた。
「フレア様、到着致しました。お気をつけて」
「ありがとう、ガルム」
「いえ、それでは」
試験会場に着くと、たくさんの子供がいた。俺も子供だが。他の受験生は知り合い(?)などの近くに行き、喋っている。
俺はどうしたんだって?知り合いなんているわけないじゃないか。今の今まで他者と交流を持とうとしてこなかった。決して、コミュニケーション能力が乏しいわけではない。勘違いはするなよ?
受験用紙を受付に出して、待機する。知り合いはいないが、一方的に知ってる貴族が何人かいる。みんなお馴染みの王族 カトリーナ・レイスバーンだ。他にも、三大公爵家の坊ちゃん嬢ちゃんがいる。あそこら辺は名前も顔もわかるが、それ以外の貴族は知らない。
殿下と公爵家の奴らを見ていると、殿下に睨まれた。見すぎたかもしれない。視線を逸らしておこう。
「はーい、受験生の皆さーん!!筆記試験の準備が整ったので、教室に案内しますよー!!」
教師か?学生か?魔力量がかなり多い。基本的に、魔力量が多いのは貴族の特徴だ。魔力量の多さで、偉さが決まるらしい。くだらない。殿下の魔力量は多いには多いが、驚くほどのものではない。
2時間後
筆記試験は、この国の歴史と魔法とは何か。という問題が出る。魔法とは、神が生み出したこの世界に満ちる魔力を素に、始まりの賢者が編み出した魔術を元にしている。時代の流れで簡略化され、今では言いたくない詠唱を使って魔法陣を空中に投影、そこに必要な魔力を流すことで発動する。
魔術というのは、通称 古代魔法と呼ばれており、その魔法陣に流し込む魔力量が成人の貴族10人分とか、馬鹿げた魔力量を消費するものだ。流し込む魔力量が多いだけあって、とんでもない威力となる。そのため、今では禁術とされている。
「筆記試験はこれで終わりです!休憩を挟んだ後、名前を呼ばれた方から魔法試験会場に移動してください。あちらでも説明がありますが、魔法試験が終わり次第、帰っていただいて構いませんので」
窓の外を眺めつつ、ボケーッとしていたら。
「フレア・フィーテル君、試験会場へ移動しなさい」
呼ばれた。行くか。
「次は……フレア・フィーテル。使える属性を全て、順番に的へ当てろ。使う魔法は中級までだ」
「分かりました。もう始めても?」
「構わん」
「では」
詠唱なんて長ったらしいものが、実戦に通用するわけないよなぁ!?てことで、使いません。
『ファイヤーランス』、『ウォーターランス』、『ウィンドランス』、『ストーンランス』、『シャイニングランス』『ダークランス』。全ての属性を使って的に放った。当然無詠唱だ。
「無詠唱の全属性か……。フッ、面白い奴が来たな」
「試験はこれで終わりですか?」
「ああ、もう帰っていいぞ。合格発表は3日後だ」
「では、さようなら」
筆記の、歴史に関しては良くも悪くもなかったが、それ以外は余裕だったな。多分、合格だろう。
帰りはどうするんだ?馬車は見当たらないから、歩いて帰れってことなんだろうな。
ところで、魔法だけの試験でよかったのか?固定砲台じゃねぇか。接近されたら為す術なくやられるんじゃねぇか?
飛行魔法で……さすがに目立つか。大人しく歩きますか。
「フレア様、おかえりなさいませ。旦那様が執務室でお待ちです」
「疲れたから寝ると伝えてくれ」
「ダメです。執務室へ」
「はぁ……」
人に用事がある時は自分から来いよ。
コンコン。
「フレアです。入っても?」
「入りなさい」
「失礼します」
「試験はどうだった?」
「ぼちぼちですね」
「伯爵家の恥にならぬように心がけろ」
「既に恥なので大丈夫です」
「ふざけているのか?」
「真面目に話してると思いますか?」
「チッ。学園には姫様もいるのだ、粗相のないようにしろ」
「合格できたらね」
「できなければただではおかぬぞ」
「姫様は落ちたら伯爵に怒られるのか……可哀想に」
「お前の話だ!!!」
「そう怒りなさんな。血圧があがりまっせ」
「お前が私を怒らせるんだ!!」
「まあ、俺は合格してると思うのでご安心を。話は以上ですか?」
「魔法しか取り柄がないのだから、合格していなかったら目も当てられん」
「それでは〜失礼しました〜」
息子をなんだと思ってるんだ、あいつ。恥だと!?既に恥だわ!!
ところで、世の魔法士は杖などの媒体を使うらしいのだが、俺は杖を持っていない……。貧乏だと思われるかな?買って貰ってないのだから、仕方ないね。
姫様に粗相のないようにって、殿下と関わらなければ俺の勝ちですわ。ハッハッハ!!もう寝るか。
3日後
今日は合格発表の日。全属性&無詠唱なのに不合格にされたら、魔法試験ってなんぞや、と思うな。さすがに無いとは思うが。
今日も馬車に乗って学園に行く。合格したら寮生活なので、しばらくはこの家ともおさらばだ。行きは送るのに、帰りは迎えに来ないんだよな。見栄を張りたいのか、張りたくないのか。
「フレア……フレア……どこだ?ない?」
「上だ。フレア・フィーテル」
「ん?上か。あったあった。ありがとな!知らない誰か……あっ」
「私を知らないのか?」
「失礼ました。カトリーナ殿下」
「貴様が不合格なはずないだろう」
「素行不良で不合格に」
「素行はそこまで悪くないだろう」
「裏で悪さを……」
「してないことは調査済みだ」
「調査!?」
「当たり前だろう?将来、部下にしたいと思う者は事前に調べておくべきだ」
「部下?誰がでしょうか」
「フレア・フィーテル。貴様だ」
「人違いですね。きっと、別の方と間違えていますよ。では、私はこれで失礼します」
「どうせ同じクラスなのだ。また会うだろう」
同じクラス?何の話だ?部下って何?殿下の部下って、公爵三銃士のことじゃないのか?……まあいいか。
「合格者ってこの後どうすれば?」
「フレア・フィーテル君ですね。学園長室にお越しください」
「へ?」
半ば強制的に連れてこられた。学園長に呼び出しくらうようなことはしてないぞ!!
「学園長、フレア君をお連れしました」
「入って」
「失礼します」
「よく来たわね、フレア君。後から、何人か来るから。その後に話をします。座ってていいわよ」
「では、失礼して」
俺の嫌な予感センサーが反応している。よくない奴が来る気がする……。
ノック音がして。
「学園長、カトリーナ殿下と三大公爵家の方々をお連れしました」
ああああああああぁぁぁ!!!!嫌な予感が当たったぁぁぁぁ!!殿下だけじゃなくて、三銃士もだと!?なんで、俺も呼ばれたんだ!?
「フレア、また会ったな」
「なんだ、フレアか」
「フレア君やっほー」
「フレア君、お久しぶりですね」
「お久しぶりですね、皆様。私はこの場には不釣り合いですので、これで失礼させていただきます。では」
「待ちなさい。拘束されたくなければ、まだ帰らないように」
「実力行使ですか?負けませんよ?」
「王族権限を使う。この場に残れ、フレア・フィーテル」
「大人気ねぇな……」
「お前は子供っぽいな」
パンパン!
「はい、みんな座ってちょうだい。話を始めるから」
「……」
「フレア君はこちらへどうぞ」
「……」
「また王族権限を使われたいのか?早く座れ」
「はい……」
「学園長、話とは?」
「まずは全員合格おめでとう。将来有望な生徒が多くてありがたいわ。合格者の中から、筆記試験首席と魔法試験首席、総合首席の子に、入学式で一言言ってもらいたいのよ」
「筆記はクロムか?」
「ええ、そうね」
「魔法はフレアで、総合がどっちなのかって話ですか」
「魔法って俺なの?」
「魔法はフレア君ね。総合もフレア君よ」
「辞退させて頂きたく」
「魔法はダメだけど、総合は辞退してもいいわよ」
「ボクたちを呼んだ理由は……」
「魔法は1人だけ抜きん出てるけど、筆記は僅差の子たちが多いのよ。順位はこれね」
テーブルに出された紙には。
筆記試験
1位 クロム・ロフトファーズ
2位 カトリーナ・レイスバーン
3位 フレア・フィーテル
4位 リュドシエル・ネイル
5位 ナターシャ・アウンズ
魔法試験
1位 フレア・フィーテル
2位 リュドシエル・ネイル
3位 クロム・ロフトファーズ
4位 カトリーナ・レイスバーン
5位 ナターシャ・アウンズ
「ナターシャ……どっちも5位……」
「むぅ!うるさいよ!学園長の話聞いてた?筆記は僅差なんだよ?」
「筆記と魔法の首席は既に貼り出されてるの。だから、それぞれ辞退が効かないんだけど。総合なら……ね?」
「クロムでいいんじゃないか?俺と同じ成績だろ?」
「その言い方は腹が立つのでやめてもらえますか?話を聞いてないんですよね?魔法は1人だけ抜きん出てるんですよ?」
「うわぁ……酷いね、ほんとに」
「嫌味か?嫌味なんだろ?」
「クロムさんでもいいんだけど……ね?各部門1人ずつ欲しいかなって」
「ナターシャは除外するとして、殿下かリュドシエルだから……殿下かな」
「ですね」
「面倒だな」
「フレア君みたいなことを言ってるよ」
「すげぇ!総合1位かよ!!って、普段の俺なら言うところだった」
「殴り飛ばすぞ」
「私も加勢します」
「ボクもやるよ!」
「俺は……やめておこう……」
「味方が1人しか居ねぇ」
「俺は味方ではないぞ?公平な立場だ」
「カトリーナ殿下ということでいいのかしら?」
「仕方あるまい」
「そうですか!良かった。フレア君に言わせたら、何を言うか分からなくて怖かったので」
俺のことをなんだと思っているのか。ちゃんとした場なら、巫山戯ませんよ?
「次の話なのですが、ここにいる皆さんは同じクラスになるわけですが」
「なぜ?」
「成績トップだからでしょう」
「皆さんと他に5人の、合計10人でSクラスとなります」
「ほぇ〜」
「それで、話というのは?」
「王立魔法学園では毎年、学園祭が開催されます。学園祭では、各クラスで店を出したり、催し物をしたりするのですが……Sクラスは何にしますか?」
今更なんだが、学園長ともあろうものが何故敬語を?殿下がいるからか。権力者もトップクラスの権力者には勝てないか……。
「他5人とは決めなくていいのか?」
「他の子は、殿下に任せると」
「面倒だから放り出しただけじゃねぇのか?俺も殿下に任せるけど」
「フレア君の場合は放り出してるだけでしょうね。でも、我々に怯まず話せるのはフレア君という例外を除けば、0人です。なので、我々に意見を出して不快にさせたら、不敬罪……なんてことを想像してしまうのでは?」
「俺も怯んでる……」
「殿下の王族権限が怖いだけだろ」
「催し物か〜何がいいかな〜」
「剣舞とかはどうだ?」
「危険なのは無しでお願いします」
「そうか……」
「メイド喫茶!」
「誰がメイドになるんだよ」
「ボクたちが!」
「「たち?」」
「ナターシャが1人でやりなさい」
「私もやりたくないな」
「えぇ〜」
プライド高そうだもんな、特にクロム。それから一向に決まる気配がなかった。オリジナル魔法発表会でも良くね?とも思ったが、上級生がやりそう。んー……。
「フレアはどうだ?何か浮かばないか?」
「んー……『エクスヒール』をばら撒くか?『エクスキュア』でもいいぞ」
「その2つを使える生徒がフレア君しかいませんけど」
「ボクたちってやることあるの?」
「教える?」
「いいのか?」
「1人だけが使えても意味無いからね」
「『エクスヒール』と『エクスキュア』は学園の教師も学びたい……」
「貴族として、『エクスキュア』は覚えておきたいですね」
「毒〇!!!」
「フレアを王城に住まわせておけば、解決するな」
「教えるって言っても、目の前で使うから、見て覚えろって感じ」
「そもそも使える者が少ない上に、使える者の中で暇してるのがフレアしかいない。見せてくれるなら、こちらは全力で覚えるつもりだ」
「Sクラスに特別授業を設けるから、そこで」
「催し物決まりでいいの?」
「決まりでいいでしょう」
「だな」
「覚えたとしてもボクたちの魔力量じゃ、そんなに数使えないね」
「何度も使えるのは、殿下とフレアか……クロムはギリギリか?」
「3回が限界でしょうね」
「マナポーションを用意すればいいのね?学園に大量に保管されているものを使っていいわ。練習にも使うでしょうし」
「俺は自前のを使う」
「ブーストポーションはまだ持ってるのか?」
「あと20本くらいかな」
「増えてないか?」
「作りました」
「えぇ!?」
戒め