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ひだまりのねこの童話作品

ニンジンなんてダイキライ


 ちいさな池のほとりには、しろねこの家族が住んでいます。


 池でお魚をとったり、庭で野菜や果物を育てて、仲良くくらしていました。




「ミーヤ、ちゃんとサラダもたべなさい」


「おかあさん、わたしはニンジンなんてダイキライなの」


 こねこのミーヤはそういってむねをはります。


 おなかがすいたら、だいすきなハンバーグやお魚をたべればいいのです。



「こまったこと……ミーヤがニンジンをたべれるように、ながれぼしにおねがいしようかしら……」


 おかあさんねこのしっぽが、パタンパタンと音をたてます。


 しっぽが音をたてるのは、ご機嫌ななめに決まっています。


「おかあさん、ながれぼしってなあに?」


 こねこのミーヤは、話を変えます。


 ご機嫌ななめのおかあさんは、ニンジンと同じくらいダイキライです。


「あら? ミーヤはながれぼしを見たことなかったかしら」


「ないわ」


「それならちょうど良かった、おばあちゃんのところまで、おつかいに行ってちょうだい」


 なにがちょうど良いのかわかりません。


 ミーヤは遊ぶのにいそがしいのに。


「おいしいお菓子をたくさん焼いたっていってたわよ?」


 それなら仕方ないです。

 

「行ってきます!!」


 ミーヤは元気いっぱいで家を出ます。


「気をつけてね。寄り道はしないのよ」


「はーい」




 おばあちゃんのお家は、池の向こうの森の中にあります。


 おつかい用の空のバスケットを持って、さあ出発です。




「ミーヤ、バスケット持ってどこへ行くんだい?」


 ミーヤに声をかけたのは、となりの池に住んでいる、ともだちのフロイ。


 およぐのがとても上手なカワウソです。


「森のおばあちゃんのところまで」


「だったら乗っていきなよ」


 フロイが得意げに丸太のボートを指さします。


「ありがとう」


 池を渡れば、おばあちゃんの森はすぐそこです。




「ねえ、フロイはニンジンって好き?」


 ミーヤはニンジンを食べなかったことを少しだけ後悔していました。


「いいや、ニンジンなんてダイキライ♪」


 フロイはボートを押しながら、歌います。


「そうだよね!! 私も、ニンジンなんてダイキライ♪」 


 ミーヤもうれしくなって歌います。



「そうだ、良かったらフロイも一緒に行かない? おばあちゃん、たくさんお菓子を焼いたんですって!!」


「良いの? 行く行く!!」


 フロイはうれしそうに細長いからだをゆらします。




「やあ、ミーヤとフロイじゃないか!! おそろいでどこへ行くんだい?」


 森の入口で寝ていたのは、ツキノワグマのルーク。



「森のおばあちゃんのところよ」

「ミーヤのおばあちゃんのところさ。お菓子があるんだって!!」  


「お菓子だって!?」


 ルークのお腹がぐ~っと鳴ります。


「良かったらルークも一緒に行く? お菓子はたくさんあるから、きっと大丈夫よ」


「良いの? 行く行く!!」


 ルークはうれしそうにドスドス足をふみならします。



 三人は森の中。


「ねえ、ルークはニンジンって好き? 私は、ニンジンなんてダイキライ♪」


「いいや、ニンジンなんてダイキライ♪」


 ルークもミーヤに合わせて歌います。


「ぼくも、ニンジンなんてダイキライ♪」 


 フロイもいっしょに歌います。



 何だか甘いにおいがしてきます。


 おばあちゃんの家はもうすぐそこです。




「まあ良く来たわねミーヤ。ルークとフロイもいらっしゃい」


 焼きたてケーキにバタークッキー。甘いハチミツの香りがするパンケーキ。


 おばあちゃんが作るお菓子はそれはもうおいしいのです。


 三人とも夢中になって食べていますよ。



「みんな、おいしいお茶がはいりましたよ」


 おばあちゃんがいれてくれる花のお茶は、とてもポカポカしてお菓子にあうのです。



「ねえ、おばあちゃんはニンジンって好き? 私は、ニンジンなんてダイキライ♪ 焼きたてのケーキがダイスキなの♪」


「ぼくも、ニンジンなんてダイキライ♪ バタークッキーがダイスキさ♪」 


「オレも、ニンジンなんてダイキライ♪ はちみつパンケーキがダイスキだ♪」 



「あら、どうしてニンジンがキライなのかしら?」


 おばあちゃんはやさしくたずねます。



「だって、ニンジンって根っこでしょ? にがくて土の味がするに決まっているわ」


 とミーヤがしっぽをゆらしながら言います。


「ミーヤが大好きなおイモも根っこなんだけどね?」


「え……そうなの?」


「そうよ、大地のおいしさをいっぱいためこんで、まるまる太って甘くておいしいのよ」



「で、でも、なんだか赤くて食べるのはこわいんだ」


 とフロイが気まずそうに言います。


「あら? みかんやリンゴ、それに木の実だって。お日さまだって赤いのよ?」


「え……た、たしかに」



「オレは草は食べないと決めているんだ。おいしいかなんて関係ないね」


 とルークは床をふみならします。


「あらルーク、あなたがダイスキなパンケーキは草の実から作るんだけど……」


「え……そうなの?」



 しょんぼりしてしまった三人を見て、おばあちゃんはウインクをします。


「でもね、私もミーヤぐらいのときは、ニンジンがダイキライだったの」


「そうなの?」


「そうよ。でもね、おばあちゃんのおかあさんが、ニンジンをたべない私に腹をたてて、ながれぼしにおねがいするって言ったから、それで初めてニンジンを食べたのよ」



「あ……それおかあさんに言われた」


「ぼ、ぼくも言われた」


「お、オレも……」



「ねえミーヤ、フロイ、ルーク、ながれぼしのおはなしは知っているかしら?」


 知らないと首を横にふる三人。  


「夜おそく……そうね、あなたたちがぐっすり眠りについている頃、夜空のお星さまにねがいごとをすると、そのねがいごとはかなうと言われているのよ」


「すごい!!」

「すごいです!!」

「すごいや!!」


「でもね……ねがいごとと引きかえに一番大切なものを失ってしまうとも言われているの」


 それを聞いて怖くなる三人。


「どうしよう……おかあさん、私のこと一番大切だって言ってた」


 耳をパタンとするミーヤ。


「……ボクも言われたことある」


 両目をかくすフロイ。


「あわわわ……オレ、もうかあさんに会えなくなっちゃうの?」


 おなかを押さえるルーク。


 

「そうね、ねがいをかなえたおほしさまは、ながれぼしになって地上に降りて来て、寝ているあなたたちをさらってゆくでしょうね」


 それを聞いた三人は大あわて。今にも泣きだしそうです。



「おばあちゃん、たすけて!!」


 怖くなって、おばあちゃんにすがりつく三人。


「ふふっ、でも大丈夫。あなたたちは、ちゃんとニンジンを食べられたじゃないの」


 にっこり微笑むおばあちゃん。



「ニンジンなんて食べてないよ?」


 そうなのです。ミーヤたちが食べたのはお菓子だけなのです。



「実はね、今日のお菓子には、ニンジンがたっぷり入っているんですよ」



 なんと、おばあちゃんのお菓子は、ニンジンケーキ、ニンジンバタークッキー、ニンジンパンケーキだったのです。




 

 三人は森の中。


 食べきれなかったお菓子と、立派なニンジンをいっぱいおみやげにもらいました。



「ねえ、フロイ、ルーク、私は、ニンジンがダイスキかもしれないわ♪」


「うん、ボクもニンジンがダイスキ♪」


「オレも、ニンジンがダイスキになった♪」 


 いっしょにダイスキなニンジンの歌を歌います。



「じゃあな、また明日」


 森の入り口でルークとさよならします。


「オレ、かあさんにニンジンのゼリーを作ってもらうんだ」


「それはおいしそうね!!」

「それはおいしそうだ!!」



「じゃあね、また明日」


 丸太のボートをおりて、フロイとさよならします。


「ボク、ママにニンジンのグラッセを作ってもらうんだ」


「それもおいしそう。わたしも作ってもらおうかしら?」



 たくさん歩いておなかが空いてきました。


「ただいま~!!」


 ミーヤは家を出たときよりも元気いっぱいです。ニンジンをたべたからにちがいありません。 



「おかえりなさい、ミーヤ。お使いごくろうさま」


 ミーヤをだきしめるおかあさんのエプロンは、少しお魚のにおいがします。


 ミーヤがダイスキなにおいです。



「ねえ、おかあさん」


「なあに」


「今夜はシチューが食べたいの」


「そうね、あなたのダイスキな、ジャガイモごろごろシチューにしましょうか」


「ちゃんとニンジンも入れてね」  


「はいはい、とっても立派なニンジンだから、世界一おいしいシチューになりますよ」



 ちいさな池のほとりには、ニンジンがダイスキなしろねこのミーヤが住んでいます。


 次の日の朝、不思議なことに、シチューのなべが空っぽになっていました。


 もしかしたら、お星さまがながれぼしになってたべに来たのかもしれません。


 だってその夜いつもより、たくさん星が降りたよと、森でいちばん物知りな、フクロウじいさんがこっそり教えてくれましたから。



 おしまい。

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― 新着の感想 ―
[一言] にんじん美味しい! シチューのにんじん最高! 可愛らしいお話でした!
2022/01/19 21:31 退会済み
管理
[良い点] うわああかわいい! ひたすらにかわいくて悶えながら読みました。 願いの代わりに大切なものを奪っていく流れ星。ちょっとブラックですがそこも童話らしく。 みんなにんじんをおいしく食べられるよう…
[良い点] こねこのミーヤがにんじん大嫌い、と言いながらも気にしている様子がかわいいなと思いました。 おばあちゃんの家に行く途中、フロイとルークに会うところから「ニンジンなんてダイキライ♪ 」に繰り返…
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