身体の記憶
私が男性恐怖症と分かって3日。今日は土曜日です。
なんかね私が男性恐怖症と分かって、ここに来るのは女の人だけになっちゃた........。
ごめんなさい。ご迷惑をおかけします。
今日もいつもの看護師さんが来て、検温を兼ねての筆談をしてくれる。やっぱり人と話すって楽しいねっ!
今の私は本を読むか、筆談をするか、字幕付きのテレビを見るしかないからよけいに楽しく感じる!!
それにだいたい字幕付きって元のものは面白いかもだけど声を声として認識できない私からしたら雑音にしか聞こえない...........。で、でも!お姉ちゃんと妹ちゃんの音は違うよ!!
何言ってるか分からなくても安心できるんだから!!
それに!!今日は朝から妹ちゃんが来てくれるらしい!!嬉しい!!!
今日朝起きたらね『お姉ちゃん!!今日私行くから楽しみにしてて!!朝から夕方までずっっと一緒にいよう!!』って言う連絡がきたの!!
本当に嬉しい!!お姉ちゃんとは仲良くなったけど、妹ちゃんとはまだだから.........。
早く来ないかな?まだかな?
ルンルンした気持ちでいたら、コンコンコンって聞こえた。
ん?もしかしてもう来てくれたの?
扉が開く。そこには赤髪の制服姿の可愛い女の子が入ってきた。
その手には『お待たせお姉ちゃん!!シィアと遊ぼ?』と書かれたスケッチブックがあった。
もう嬉しい!!私ができる最高の笑顔でお出迎えする!!
妹ちゃんがリュックを下ろしたのを確認すると、こっちに手招きをしてみる。
すると笑顔で妹ちゃんはこっちに来てくれた!
妹ちゃん可愛すぎるよ!!!
ちょいちょいとスケッチブックを拝借する。こんな時にスマホの画面なんて味気ないし、せっかくスケッチブックがあるなら手書きで話したいじゃん?
『どうしたの?』
『あのね、これからよろしくね妹ちゃん!!』
『うん!!よろしくねお姉ちゃん!!...........でもね妹ちゃんはやめてほしいな笑』
『分かったよ........よろしくねシィーちゃん!!』
『嬉しい!!!!』
本当に嬉しいんだろうなぁ。さっきから飛び跳ねて喜んでるもん。
なんでシィーちゃんはこんなに可愛いの?やっぱりあのお姉ちゃんの妹だからかな?
可愛いはいいんだけどシィーちゃん?でも、もうそろそろいい加減大人しくしないと、ベッド壊れちゃうよ?さすがにベッドを壊して弁償するのはやめときたいなぁ。
いくらシィーちゃんが軽くても、私とシィーちゃんが乗ってるんだから壊れちゃうかもしれないよ?
...............ちょっと落ち着いたかな?まだ嬉しそうにしてるけど、もう飛び跳ねてないね?........よかったベッドが壊れる前に収まって。
やっとおとなしくなったシィーちゃんと目が合う。何か期待に満ちたキラキラした目を私に向けるけど、ごめんね。私昔みたいにシィーちゃんのこと詳しくないから分からないの。ごめんね。
3秒くらい見つめあっていたら、シィーちゃんの方から目をそらして私に背を向けた。
シィーちゃんは私が少し動けばいつでも触れられる位置にいた。
ジッとシィーちゃんの背中を見ていたら、何かしないといけないと思ったけど、何すればいいんだろう?
分からない。けど気づいたらシィーちゃんを抱きしめてた。
え!?なんで私シィーちゃんを抱きしめてるの?...............そういえばシィーちゃんがキラキラした目をしたのってこうして欲しかったから?でもなんで?
ギュっと抱きしめてるとシィーちゃんが突然肩を震わせて泣き始めた。
あ!?ごめんね!!いきなり抱きしめちゃって...........嫌だったね?
さっきベッドの上に放り投げてたスケッチブックを取って片手で書く。
『シィーちゃんごめんね。私に抱きしめられるの..............嫌だよね?』
シィーちゃんはふるふると首を横に振る。
『このままでいてお姉ちゃん』
震える手で書いた文字からまだシィーちゃんが泣いてることが分かる。
ごめんね.........私が泣かせちゃった........。
シィーちゃんを後ろから抱きしめたいままでいる。
もしかしてシィーちゃんは最初からこうして欲しかったの?だからあんな目してたの?だったら今泣いてるのは嬉し涙?
身体が勝手に動いたのは、もしかして私の身体が覚えていたから?
頭では分からなくても身体で覚えてたから、シィーちゃんがやってほしいって思ってたことができたの?
この前読んだ小説に出てきた。脳で覚えてないことでも身体が覚えてることがある。今までに染みついたものは絶対に忘れない。言葉は忘れても行動は忘れない、ってね。
だから私はそのままさっきよりも強くギュっと抱きしめる。きっとこれが過去の『私』がシィーちゃんにやってきたことだと思うから。
それにシィーちゃんの耳に顔を寄せてみる。
多分........いや絶対に意味がないだろうけど、私は口を開かずにはいられなかった。ここで言わなきゃ絶対にダメな気がしたの。
「だ.......ょ........よ........ゃん」
「ーーーー!?」
かすかに声が出たきがした。でも........シィーちゃんが何言ってるか分かんない。
「ーーーー!!ーーーーーーーー!?」
ごめんねまだ聞こえないよ。でもね私喋れたよ!!ほんのちょっとだけだけどね。
『ごめんね。まだ分からないの........』
『ううん大丈夫!!良かったねお姉ちゃん!!』
文字にすればシィーちゃんは自分のことのように喜んでくれているけど、未だ泣いてる。
どうにかして泣き止ませたいけど、どうすればいいんだろう?
...............そうだ!!お姉ちゃんと一緒のことすればいいんだ!!
私はシィーちゃんを抱きしめたまま後ろに倒れる。私と一緒に倒れたシィーちゃんは最初はびっくりしてたけど、すぐに自分の状況に気づいちゃって離れようとした。
でもそんなんこと私が許さないんだからね!!
ジタバタしてるシィーちゃんを抑えるように抱き込む。力はシィーちゃんの方が強いけど頑張った!!私偉い!!!
そんな私に負けたのかシィーちゃんは諦めて、もう抵抗しなくなった。
ふふふ、それでいいんだよシィーちゃん。
私はそれからシィーちゃんの正面になるように動いて、もう一回シィーちゃんを正面から抱きしめる。
...........そのままだと私がシィーちゃんを圧し潰す形になるからお互い横を向くように位置調整はちゃんとすんでるから大丈夫!!!
抱きしめながらシィーちゃんの頭をポンポンってしたり、頭を撫でたりしたのは無意識でやってた。
ある意味怖いね身体の記憶って......。私が知らないことでも身体の記憶が解決してくれる。無意識で解決してくれる。まるで過去の『私』がしてるような感じがするけどそれでいい。今この場にいるべきは私じゃなくて過去の『私』なんだから。
今の私だとできないことを過去の『私』がしてくれるから。だからそれでいい。
抵抗しなくなったシィーちゃんだけど、私が正面から抱きしめたら、シィーちゃんは今度は体をビクッとさせた。
.................嫌がられてはないからこのまま続けよっと。
しばらくそのままでいたらシィーちゃんが突然私に縋りついてきた。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
私のパジャマを強く握りしめて、私の胸に顔を埋めて号泣している。
................そっか。私ったらシィーちゃんをずっと傷つけてたんだね。ずっと寂しい思いさせてたんだね。
何言ってるか分からないけどそう伝わってくる。表情がパジャマを握りしめる力が、そしてシィーちゃんが纏う雰囲気がそう感じさせてくれる。
うん。これからは私に甘えてもいいんだからねシィーちゃん。
シィーちゃんが寂しい思いをした分以上に幸せにするから、もう遠慮しなくていいんだよ。
私の腕の中で泣き続けるシィーちゃん。身長も身体の全体的な大きさも私よりも大きいのに、こんなに身体を小さくして泣いてる。
もう大丈夫。私が帰ってきたから。だからシィーちゃんはもう大丈夫。
これから一緒に暮らしていこ?私がシィーちゃんを受け入れられるから。辛いことも、楽しいことも、悲しい時も、嬉しい時もずっとそばにいるから。
だからもう大丈夫。あとはお姉ちゃんに任せててね。
シィーちゃんが泣き止むまで私はずっとシィーちゃんを抱きしめてた。
もうこれ以上離れ離れにならないように。