意味不明
sideイロハ
その電話は突然のことだった。私はいつもどおり保護者さんからの問い合わせだと思って呑気にしていた。
「翠宮先生!!病院から電話です!!なんでも妹さんについて....だとか。代わってください。」
え!?妹に関して?どういうこと!?私の可愛い妹たちに何かあったの!?
「はい、翠宮ですが......。」
「翠宮シキさんのお姉さんでしょうか?」
「そうですが......。どうしました?」
「簡潔に言います。翠宮さんの妹さん、シキさんが先ほど救急車で運ばれてきました。」
「え!?そ、それはどういうことなんですか!?どこか悪いのですか?」
「いえ、病気ではなくて.........言いづらいのですが........」
「早く言ってください!!シキがどうしたんでしょうか!?」
「.........心の準備をしていて下さい。........シキさんは先ほど自殺を図ったそうです」
「..............っ!?」
「それも自分で手首を深く切って、その後首も切るという、死ぬ可能性が高い方法をとっていました。」
「シ、シキは大丈夫なんですか!?」
「こちらで処置はしていますが、まだ分かりません。ですので早く付属病院に来てください!」
「わ、分かりました。すぐに行きます!!」
その後私はすぐに早退して、私とシキの妹のシィアを迎えに行って、病院に行く。
私もだけど、シィアは突然のことで呆然としていた。
しょうがないよね。シィアはお姉ちゃん子だから。私よりもシキに懐いていたからね。
病院に着くとすぐにシキのもとに行く。
病室に入るとそこには、酸素マスクをつけたシキがいた。
シキの左手首と首筋には包帯が巻かれていた。
いつもよりも青白い顔をしてシキはそこにいた。
死んで...........ないよね?なんでシキだけいっつもこんな目にあうの?この子が何か悪いことしたの!?してないでしょ!!この子は優しい子なのよ!!生まれ持ったものに負けないくらい、強くて、優しくて、自慢の妹なのに.........なのにこれはおかしいでしょ!!
「お姉ちゃん!!」
シィアが泣きながらシキの右手を握る。エグエグと泣きながらシキの右手を自分のおでこに当ててる。
「なんで..........どうして!?どうしてお姉ちゃんが!!!」
あまりのことに私は茫然としていたけどシィアの叫び声で現実に呼び戻された。
これは夢なんかじゃない。たしかに現実なんだって。シキが、私の可愛い妹のシキがこうなったのは現実なんだって思わされる。
...................ねぇ神さまって存在してるんでしょ?奇跡をふりまく存在なんでしょ?なら私の可愛い妹にその奇跡をあげたっていいじゃない。こんなに不幸を背負ってるのにまだ傷つけるの?代償なら私が引き受けるからさ、神の奇跡ってやつを起こしてよ。
不意にガラガラと音を立てて扉が開く。
「翠宮シキさんのお姉さんでしょうか?」
「はい、そうですが.........」
私に話しかけてきたのは、30代手前くらいのまだ若い女医さんだった。
「詳しいことは後ほど説明しますので、手短にお伝えします。なんとか一命は取り留めましたが、血を多く失ったため、脳に何か障害が残る可能性があります。それが半身不随なのか、記憶障害なのかはわかりませんが、何かしら残る可能性が高いです」
「え!?」
なんでシキだけなの!?ねぇシキをこれ以上苦しめないで!!
「それとこちらを...........誰も中を見ていないのでご安心を。では失礼します」
女医さんは私に一通の封筒を渡して、病室から出て行った。
シィアはまだ泣いている。
封筒を開けると、一通の手紙が入っていた。
『ごめんなさい。もう私生きるのが辛いです。普通のイジメならまだ耐えられました。でも、未遂とはいえ強姦されかけました。あの時の恐怖はまだ残っています。今でも全身が震えるんです。暗い夜や密室の中だと、余計に辛いんです。いつも頭にあるのは、もし私があの場から助けられなかったらどうなっていたか。ふとした時にフラッシュバックするあの恐怖にもう耐えられません。ごめんなさい。お姉ちゃん、シィア、迷惑かけるね。こんなダメな私でごめんなさい。2人の幸せを願っています。さよなら。』
思わず紙を落としてしまう。
信じられない。あの強くて優しいシキがここまで追い詰められるなんて。
文章でも綺麗な言葉を使うのに、ここまで文が乱れてるってことは相当辛かったはず。
................ごめんねシキ。お姉ちゃん気づいてあげられなかった。いつでもシキの味方だって言ってなのに肝心なところで頼りにならなくてごめんね。
..............この紙に書かれているのが本当ならシキは相当怖かったはず。誰にも打ち明けられず、私が気づいてあげることもできずに、独りでフラッシュバックから逃げることなんてできずに、毎日怖い思いをして、治ることもなくて.............。
フツフツと怒りの感情が込み上がってくる。シキの心を壊した人達に対する怒り。
シキが追い詰められていることに気がつかなかった私に対する怒り。
もう感情がグチャグチャでよく分かんない。
でもこれだけは言える。
シキをこんな目にあわせた奴らは絶対に許さない。
シキが入院して1ヶ月。あれから私は自分の立場を利用して、犯人を見つけた。学校側も高校教員である私が証拠も証人もつけて、訴えたから行動せざるを得なかった。
もちろん報道されたし、実行犯たちは少年院行きになった。
学校側は非難の嵐にさらされた。
ここまでやっても私の心は晴れない。シキが受けた傷はこんなものではない。これで許されるなんて思わないほうがいい。
でも今はこれでいいや。これ以上やっちゃうと、大変なことになるからね。
この1ヶ月シィアは学校を休んでずっとシキの側にいた。
シィアもシキと同じ中高一貫校にいたから、脅しまくってシィアが休むのは公欠にしてもらった。
責任はあっちにあるんだからこれくらい当然。
私も2ヶ月程度お休みをもらっていた。その時間を使って、証拠探しをしたから、勤め先の校長先生たちには感謝しかない。
今日もシィアを連れてシキのところに行く。
コンコンとノックをして病室に入る。
いつも通り返事はない。でも扉を開けると身体を起こして座っている姿が見えた。
綺麗な真っ白な髪に幾分かは血色がよくなったとはいえそれでも白い肌。着なれない青の病院服に身を包んでいても見慣れた姿をしている子がいた。
............嘘、じゃないよね?私自身が見せてる幻覚なんかじゃないよね?
「シキが目を覚ました...........おかえりシキ!!」
「お姉ちゃんやっと起きたね!!おはようお姉ちゃん!!」
私達は思わずシキを抱きしめる。
この温もりを永遠に失うところだった。
今度こそお姉ちゃんがシキを守るから。頼りないお姉ちゃんでも頑張るから見てて。
抱きしめているとシキが震えだした。そしてよく見ると泣いていた。
.............もしかして自分以外の人のことを怖がってる?
もしそうなら私は.......。
「お姉ちゃんどうしたの!?」
「大丈夫よシキ。落ち着いて。お姉ちゃんが側にいるから」
だんだんシキが泣き止んでくる。そして少しだけ力を入れて抱き返してくれる。
良かった......最悪な状況じゃなくて。これならまだ私はこの子を抱きしめてあげられる。
...................あぁシキが帰ってきた。私の可愛い妹が帰ってきた。
もうシキを放してあげない。ずっと私が守ってあげるから、もう安心してね?シキを不幸にはさせないから。
そうやって抱きしめていると、シキの主治医である女医さんがやってきた。
一応1番の年上だから私はシキから離れて、女医さんの相手をする。
「あの、大変申し訳ないのですが.........少しの間だけで良いので席を外してもらえませんか?シキさんに話すことがありまして」
「え!?どういうことですか?」
「シキさんの身体に関することで本人に確認してもらいたいことがあるんです」
「私達が一緒ではダメなのですか?」
「すみません。シキさん自身が自分以外に見せたくないと前から仰っていたので........。」
「..............分かりました。シィア、一旦外に出ようか?」
「いや!!お姉ちゃんと一緒にいるの!!」
「そんなこと言わないの。またすぐに会えるから」
「絶対にいや!!」
「もう........シィアったら。じゃあまた後でこようね?ここにいるお医者さんがシキと2人で話したいんだって。だから私達は一旦外に行こ?」
「分かった....................」
渋々頷いてくれたシィアはシキから身体を離すとこっちにやってくる。
そして私達は病室から出る。
今はこれでいいはず。
シキが目覚めてくれた。
それだけでいいから。
ねえ私達の幸せをこれ以上壊すと容赦しないよ?
怒ったお姉ちゃんは怖いんだからね。
でもまずはシキを抱きしめることから始めようか。
何かあったとしても大丈夫。だって私達には家族の絆がある。誰にも負けないほど強い絆が。
だからシキだってすぐに回復する。いや回復させる。じゃないとシキを幸せにできない。
だからねシキ、これからは幸せになってね。貴方は何も知らなくていいよ。私が全部やってあげるから。
お姉ちゃんの力を見せてあげますよ。