決定的に足りないもの
side悠人(父)
あれからイロハが帰ってきて、久しぶりに娘達と一緒に食事をした。でも足りないものがある。それはシキの存在だ。
シキがこの場にいない。それだけで悲しくなってくる。
シキは家族をいつも笑わせてくれた。一生懸命で健気に生きている姿を見るとこちらも力が入った。
そんなシキがいない。いつもニコニコ笑いながら美味しそうにご飯を食べていたシキがこの場にいない。
ライラも相当怒っているが、俺だって怒っている。娘を傷物にされて平気な父親がいるか?子供は宝だ。
たとえ俺が死んでしまってもシキが、俺の娘達が生きてさえいてくれればいいと思うほど、俺は娘達を愛している。
本当は海外になんて行きたくなかったが、そこは大人の事情というやつで飛ばされた。1日でも早く日本に帰るために仕事をしていたが、その最中に電話がきたんだ。シキが自殺未遂をしたと.........。
正直嘘かと思った。けどイロハの声からして本当だと分かった。悲しみ、怒り、悔しさいろんな感情が混ざった声をしていた。
こんな声を出すときは嘘を言う余裕なんてないはずだ。だから俺達夫婦は日本に帰るための手続きをし始めた。
仕事、上司の説得、飛行機のチケットなど準備に時間がかかり、シキに会うのが遅れてしまった。
シキ無事でいろよ?そう願うしかなかった。
それからイロハからシキのことを聞く限りは、なんとか生きてるらしい。それだけで俺は安堵した。生きているならそれでいい。あとはなんとかなるからな。
ただ気になることと言えば、記憶喪失になったことだ。それほど精神的にダメージを負ったため声も出せず、言語を理解しないように脳が変化したのかもしれない。
だったら今出来ることはなんなのか分からない。シキが抱えているトラウマは根深いもので、解決のために力になれることは少ないかもしれない。
でも俺はどんなことでもする。たとえ嫌われてもそれがシキのためになるのなら仕方なくする。
ただシキが抱えるものは俺達夫婦ではなくて、イロハとシィアが時間をかけて治した方がいいだろう。
この3年間俺たちは娘達とはあまり関係を持っていなかった。学校でどう過ごし、家で何をしていたかを知らない。でもイロハとシィアは一緒に暮らし、その部分を知っている。だから俺達が出る幕などないだろう。
俺達ができるのはめんどくさい手続きとかイロハとシィアのケアくらいだろう。
だからそれをする。不甲斐ない父親でしかない俺が精一杯できることをする。
そしてシキと会いたい。力になれなくても直接目で見て無事を確認したい。
たとえ記憶がなくて俺を忘れていてもシキは俺の大事な娘なんだから。
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翌朝になり、シキが入院している病院を家族全員で訪れる。
やっとシキに会える。日本に来るまでも時間がかかり、日本に着いた瞬間から会いたくて仕方がなかった。
ちゃんとしていればいいのだが...........。
イロハとシィアはシキと仲が良い看護師のもとに行き話をする。その間に俺達はシキの病室に先に入っておく。
ノックをするが返事が返ってこない。多分まだ寝ているのだろう。
小さい頃からシキは朝が弱いからなぁ。いつもは頑張って起きてるけど、今はその必要がないからだろう。
ライラが音を立てないように静かに扉を開ける。
ベッドを見ると、1人の少女がいた。
最後に会った時よりも女性的に、魅力的に成長したシキがいた。多少幼さが消え、贔屓目で見なくても美少女になっていた。
誰からも愛されそうな少女にシキはなっていた。
しかし髪色は白、肌は病的にまで白く、華奢すぎる身体が目立っていた。
首元を見れば包帯が巻かれている。これが自殺を図った時についた傷なんだろう。
痛々しすぎる..............。そこまでシキは悩んでいたのか。
ん?そういえばシキの顔なんか赤くないか?それに少し息が荒い気がする........。
ライラが慌ててシキのおでこに手を当てる。少しだけシキの顔が和らいだように見える。
「シキ、熱が出てるわ。多分疲れたんじゃないかしら?私達がいた時みたいに」
「そうか.........看護師さんを呼んでくる」
すぐに呼びに行き、適切な処置をしてもらう。シキの担当医である女医さんが言うには、やはり疲労が原因らしい。
とりあえずは安心したが、シキが寝てしまったのは少し残念だ。
イロハとシィアはシキの身の回りの物を買い足しに出かけた。だからここにいるのは俺達夫婦とシキだけだ。
早く起きてほしいがこればっかりは仕方ない事だ。
シキ、夢の世界でも現実の世界でもお前が幸せになれるよう願っている。
俺が手伝えることは少ないかもしれないが、力になってやる。
だからシキ?お前はもう大丈夫だ。俺達夫婦とイロハとシィアが今度こそお前を守ってやる。
だから次に目が覚めたら元気な姿を俺に見せてくれないか?




