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帰国

 sideライラ


 海外で活動をし始めて3年とちょっとが経って、そろそろ娘達が恋しくなってきた時、日本から1本の電話があった。


 普段は忙しくて取れないけど、今は比較的落ち着いてる..........いや私達が落ち着かせたから取れたって言える。それにもし忙しくてもこの電話は絶対に取るもの。だって愛する我が子達なんだから。


 でもこの電話を取った時ほど、海外に来たことを後悔したことはないわ。


 私の可愛い娘達、その中でも元気に産んであげられなかったシキがあんなことになるなんて........。


 しっかり者で優しくて、自分の置かれた境遇を跳ね返すほどの意志と力を持ったシキが自殺未遂をするなんて信じたくなかった。けどイロハがこんな嘘をつくはずがないし、何よりもイロハの声が怒ってた。


 静かに静かに怒ってた。そのおかげで私は冷静さを取り戻せた。


 だって!だって!!自分の大切な子供が、愛する娘を傷つけられて平気な母親がいると思うの!?絶対にいないでしょ!!


 イロハから聞く限り犯人に報復はしたし、学校側には私が行って問い詰めればいいけど、シキが無事かどうかが心配。


 あの子は自分でなんでも背負いこむから大丈夫?


 イジメなんて受けて心がちゃんと生きてるの?


 あの子に限ってそんなことはないと思うけど、それでも心配してしまうのはやっぱり私があの子の母親だから。もう3年も会ってないけどそれでも私はあの子の母親なんだから。


 だから私はすぐにでも日本に帰る支度をした。上司にはここでの功績を盾に無理やり休みを取ってきた。もちろん旦那も一緒にね。


 待っててシキ。お母さん今から行くね。


 ------


 やーっと日本に着いたわ。あいかわらずここはジメジメしてるわね。


 さてまずは家に帰って荷物を置いて、イロハを待つべき?そしたら多分シィアも帰ってくるはず。


 ..............うんやっぱり家が1番ね。あの時から何も変わってない...........ん?ちょっとシキに関するものが減ってる........?写真だって無い。服とかはあっちに持って行ってるはずだから分かるけど、なんか物が全体的に少ない気がする..........?


「ねえあなた?私達の家ってこんなに寂しかったかしら?」


「いや?俺達がいた時よりも物が少なくなってるな」


「そうよね..........」


 まぁ考えるだけ無駄でしょうから、まずは荷物を私達の部屋に片付けてきましょうかね? 


 ――――――


 めんどくさい荷物整理も終わったし、あとは2人を待つだけね?


「ただいまーー!!イロハねぇ帰ってるの?」


 ちょうどいいタイミング。


 ふふっ、あの声は私が覚えてる声よりも少し大人びているけどシィアね。


 元気でいてくれたのかな?でもごめんね?思わず夫婦2人で笑ってしまったわ。シィアは変わらないね?いつも元気いっぱいで、私達を笑わせてくれるもの。


「イロハねぇどこいるの?リビング?..............え!?お母さん!?お父さん!?どうしたの急に帰ってきて!?」


「お帰りシィア。イロハから電話がかかってきてね、出来るだけ早く帰ってこようと頑張ったんだけどここまで遅くなっちゃた。ごめんね、辛い時にそばにいてあげられなくて」


「お帰りシィア。お父さんもごめんな、仕事ばっかりで家のことできなくて........」


「...........ううん大丈夫。だって1番辛かったのはお姉ちゃんなんだもん。..............私が泣いたって仕方ないもん。お姉ちゃんが怖い思いしたのに、私が泣いちゃうのはおかしいだもん」


 シィア..........この子も自分を責める子だったわ。この子に責任なんてないのに、悪いことなんてしてないのに自分で背負いこもうとする。


 この子も優しい性格をしてるけど、今回はそれが確実に裏目に出てしまった。


 本当の母親ならいつもそばにいて、悩みを聞いてあげて、一緒に悩んであげるのが正解なんだろうけど、私じゃそれはできない。


 1番そばにいてあげないといけない時にいられなかったから、今回のその役目は多分イロハがするべきだと思う。


 私はその場にいなかったから言えることなんてない。目の前でシキが倒れている姿を見てないのに、シキについて言ってあげられることなんてない。


 でもこんな私でもシィアにやってあげられることが唯一ある。


 それはシィアを泣かしてあげること。


 多分シィアは強い子だからシキの目の前やイロハの目の前ではそんなに泣いてないはず。もし泣いてたとしても多分ずっと独りで泣いてた。


 自分の中だけで悲しい感情を押さえ込んで、発散ができないまま今まで過ごしてきたんだと思う。


 誰かに打ち明けることでスッキリすることもある。だから今回私はその役目をする。


 だって私はシィアの母親ですから。母親には母親にだけ出来ることがあるから、それをすればいい。


「ねえシィア、こっちおいで」


 制服姿のシィアをこっちに呼び寄せて私の隣に座らせる。そして私はシィアを抱きしめる。


 ビクッと身体が震えるけどそんなの関係ない。


「シィア?我慢しなくてもいいよ?ここにはお母さんとお父さんしかいないから」


「................。」


「大丈夫。そんな悲しい顔してたらシキが困っちゃうよ?だからここで発散しちゃいましょ?」


「..............いいの?........私、泣いてもいいの?..............強がらなくても、いいの?」


「いいよ。私はシィアのお母さんなんだから、うんと甘えていいわよ?」


「...........うん」


 それからシィアは大声で泣いた。お姉ちゃんごめんなさい、守れなくてごめんなさい。怖い思いさせてごめんなさい。全部私が悪いのってシィアは言ってるけど、そんなことない。


 悪いのは全部シキをいじめた人達。シィアが悪いことなんて一つもない。悪いどころかシィアは立派だと思う。それもそこらへんの大人よりも、ね?


 人を思いやる優しい気持ち、シキとイロハのためとあまり泣かなかった強い気持ち。私がいなくてもシィアは良い子に育ってくれた。


 イロハとシキがそうやって育ててくれたんだと思うわ。


 だから私はシキをいじめた人達を絶対に許さない。


 私がシキの母親でもあり、1人の社会人としても絶対に許さない。


 今日は時間的にもうシキと会う余裕がないから病院には行かないけど、今のシキを見て私が正気でいられるか正直分からない。


 でも私は母親としてシキを守らないといけない。


 たとえ長い間会ってなくて、母親だって思われてなくても。


 だから、シキがどんな状態でも受け入れる覚悟はできてる。1番はなんともないのがいいけど、多分それはない。


 まだ大粒の涙を流しながら叫んでいるシィアをなでながら私は一つのことを決意する。


 今度こそ私がシキを守ってあげるから、だからシィア?イロハ?もう自分を責めるのはやめて。もしそれでも、誰かを責めたいならお母さんを責めなさい。


 それが私に出来る唯一のことだから。

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