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2.

 バラ園に入り、あてもなく歩いていく。

「まあ綺麗…!!」

 ルーク公爵邸の庭園も見事だが、独身でロロが来るまではルーク公爵とユーリしかいなかった屋敷はどちらかというとそっけなく、豪華なバラなどという花よりも木をいろいろと植えており、いくらか趣が違うのだ。

 色とりどりのバラに幼いながらも乙女のロロは心が奪われた。

 

「…あれ?」


 いつの間にか随分奥まできてしまったのか、少し広い芝生の場所に出てしまった。

 芝生には既に先客がいた。

 

 艶やかなまっすぐなチェリーブロンドに真っ赤な瞳をした、小柄で華奢な令嬢が芝生に座っていた。

 突然現れたロロに驚いたようで、すこし目を大きく見開いていたが、すぐに優し気に微笑みかけてくる。


「…え、バラ園の妖精??」


 魔法があるこの世界には人外の生き物も存在する。ただし、それらと実際に出くわすことは人生では皆無といってもいい。

 しかし、どこか浮世離れした可憐な美しいこの女性はもしかしたら人間ではないのかもしれないとロロは思った。

 あまりの美しさにポカンとしてしまう。

 女性はロロの言葉を聞き破顔した。笑うと少し幼さが生まれる。


「残念だけど、違うわ。わたしはここの生徒よ。リーリアといいます」


 同じ人間? こんなに美しい人が?

 実はロロもかなりの美少女なのだが、そんな認識はロロ自体はしていない。

 このはかなげな女性もこの学園の生徒なのか。

 恐るべし、この学園。


「…ロロです。リーリア様はここで何しているのですか?」


 あいさつ代わりにルーク公爵から厳しく覚えこまされたカーテシーをしてみる。


「あら、とても素敵なカーテシー。立派な淑女ね」


 ロロの挨拶をそう褒めてくれた。

 ただし、リーリア自体は立ち上がる気配はない。

 普通はこういう場で座ったままで挨拶は終わらせないんだけれども、ロロはまだ少女だし、淑女は多少の無礼には目をつむるもの。

 立ち上がらないリーリアを訝しげに覚えながらも、ロロはリーリアの隣に腰かけた。

 リーリアは優しく微笑んでいて、迷惑そうにはしなかった。

 

(あまり遠くに行くと、またユーリに怒られるものね)


 バラ園の散策よりも、この綺麗なお姉さまとお友達になりたい。

 普段ルーク公爵とユーリの二人と共に過ごしているので、女性の知り合いも欲しかった。

 

「わたしはここで人待ちをしているの」

「あ、わたしも! じゃあ、リーリア様と一緒にしばらくここで待ってもいいかしら?」

「ええ、もちろん構わないわ」


 ロロは今日は学園の見学に来たこと、編入してくることなど話す。


「じゃあロロが入ってくるのが楽しみね。わたしは高等部の2年よ」


 リーリアはとても聞き上手だった。

 優しいリーリアについつい話をしてしまう。


「あのね、わたし、もう魔法使えるの!」

「まあ、そうなの、すごいのね」

「…見てみたい??」

「ええ、もちろん」


 あまりにニコニコ聞いてくれるリーリアに良いところを見せたい。

 最近自分にも魔力があることがわかったところだが、ルーク公爵のところでお世話になってすぐに魔法の使い方も教わり始めたのだ。

 自分は才能があったのか、教わり始めてすぐに簡単な魔法が使えるようになった。なぜかそれを見たルーク公爵はかなり興奮していたけれど。


 ロロは近くにあったバラを一輪摘み取った。

 それを上に放り投げる。


「見てて!」


(…散れ…!!)


 上に放ったバラを見つめて念じる。

 すると花はバラバラに花弁で分かれ、まるでシャワーのように二人の上に舞い落ちた。

 花の雨である。


 驚いたのはリーリアである。

 まさかこんな幼い少女が花を空中で分解し、ここまで見事にバラバラにシャワーのように注いでくるとは思っていなかった。

 せいぜい土を盛り上げるとか、つむじ風を起こすくらいかと思っていたのだ。

 これは初歩とはいえない、中程度の魔法である。


「…まあ、本当にすごいのね」


 思わず、飾らない本音の賛辞を送ったら。

 それがお世辞ではない本音の言葉と通じたのであろう、ロロが自慢げに胸を張った。


「そうでしょ?」


 もう一度リーリアに見せてあげようと近くのバラに手を伸ばしたところ。

 誰かがロロの頭を上から片手で掴んだ。


「…やめろ」


 ロロの頭上から低い男の声がした。

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