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童話

満月電車

作者: 碧衣 奈美

 今夜は満月です。

 空にはまぁんまるなお月様がぽっかり。

 いつもなら光をさえぎったりしてちょっぴり意地悪なんかしてしまう雲も、今夜はちょっと遠慮しています。

 だって、今夜は満月なのですから。


 毎月、満月の夜には、月から小さな電車がやって来ます。

 電車は一両だけ。地上にある、トラックくらいの大きさでしょうか。

 たった一両ですが、月から地上にやって来るのです。

 その電車が暗闇の中で迷ってしまわないように、お月様はその優しい光を地上へ向け、雲もその邪魔をしないようにするのです。

 電車は満月の夜にだけ走るので「満月電車」と呼ばれます。

 この満月電車は、人を運ぶための電車ではなく、貨物車です。

 だから、中には人が座るイスもないし、釣り革もありません。

 ああ、イスは一つだけありました。

 運転士さんが座るイスです。

 え? その満月電車が何を運んでいるのかって?

 うーん、本当は秘密なのですけれど……今夜は特別。

 こっそり教えてあげましょう。

 でも、いつもなら本当にないしょですからね。


 満月電車は、月で作られたもち粉やおさとうを運んでいるのです。

 それらの荷物は地上へ運ばれ、あるお店に着きます。

 満月電車がそのお店に着くと、お店の人達が出て来て、倉庫に荷物を運びます。

 そして、次の日からそのもち粉やおさとうを使って、おだんごを作るのです。

 もちろん、手づくり。

 そのおだんごの包装紙には、うさぎさんの絵がたくさんついています。

 だから、みんなは「うさぎじるしのつきみだんご」と呼びます。

 そう。

 このおだんごは、月にいるうさぎさんが使っているおだんごの材料と同じなのです。

 食べている人達は、包装紙やお店の看板なんかにうさぎさんの絵がついているので

「うさぎじるしのつきみだんご」と呼びます。

 でも、本当は「つきうさぎのつきみだんご」なのですよ。


 満月電車はとても小さいですが、荷物がたっぷり積めます。

 お店の倉庫にも、たっぷりと材料は置いておけます。

 だけど、とーってもおいしいおだんごなので、とーっても人気があるのです。

 なので、あっという間に売れてしまいます。

 倉庫は半月でからっぽになってしまうのですが、材料は満月の夜にしか来ません。

 だって、満月電車は、満月の夜にしか動けないのですから。

 他の月夜では、お月様の光が充分じゃないので、ちゃんとお店まで着くことができないのです。

 一度、お客さんがどうしてもほしいと注文したので、電車を動かしましたが、やっぱりお店まで着くことができませんでした。

 だから、今は満月の夜にだけ、満月電車を動かすようになりました。


 どうやら今夜も無事に満月電車はお店に着いたようです。

 明日からまた、お店の人達は忙しくなりますね。

 え? そのお店がどこにあるかって?

 それは……探してごらんなさい。

 満月の夜の次の日、うさぎさんの看板がある、とっても忙しそうなお店ですよ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 石河翠様の「冬童話大賞2021」から拝読させていただきました。 何と優しくて、穏やかで、夢のあるお話なんでしょう。 童話のお手本みたいな作品だと感じました。 子どもが小さかったら読み聞かせに…
[良い点] ころんと小粒で可愛い「つきうさぎのつきみだんご」に本能的に集中してしまいますが(だって美味しそうですから!)タイトルは満月電車なんですよね。 月の光の中、音もなく降りてくる満月電車。 お…
[一言] 読みました。面白かったです。 語り口がとても穏やかで、お話全体の雰囲気もとてもほんわかしていて、ほっこりさせていただきました。 つきうさぎのつきみだんご、なんだか美味しそうですね。つきの…
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