少女たち
森の入り口で、引き揚げる人の国の軍に、後方から襲い掛かろうとする魔王軍を待ち伏せる。
地鳴りのような鬨の声とともに森から彷徨える屍体が討って出る。その者どもにネクロマンサーの言葉で言う。
『解』
彷徨える屍体たちの膝から力が抜け、次々と前のめりに折り重なって倒れる。
軛を解かれた死霊たちが天に向けて飛び去る。
見る者の目には、天に向けて無数の狼煙が上がっているように見えるかもしれない。凄まじい数だ。いつの間にこんなことに。なぜもっと早くこうしなかったのだろう。己の弱さが招いた事態に、今更ながら戦慄する。
噴水のように天に向け噴き上がる死霊の中を城に戻る。
何という美しさ。あのならず者どもが作り出した、唯一の美しいものかもしれない。
あなた方には、ほんとうに気の毒なことをしました。さあもうお行きなさい。振り返ってはなりません。
「魔王様! なぜこんなことを!」
魔王の間に戻ると、元英雄、今はならず者の剣士がまろび出てきた。
「なぜ? わたくしの命に背いたからです」
振り返ると、ならず者4人組は居心地が悪そうにもじもじしている。その後ろでは血色不良ガールズがこちらを窺っている。
「しかしあの者たちはこれまで、誠心誠意魔王様にお仕えして参りました!」
「それならば年季明けということでよろしいでしょう」
ドカッ、と故意に音を立てて玉座と呼ばれている椅子に座る。こんな時、骨だけの身では軽過ぎて迫力が出ない上に、骨盤が割れるのではとちょっと心配になる。尻の肉は大切なのだなぁ。しみじみ。
「それで? わたくしの命に背こうと言い出したのはどなたでございますか?」
4人組はお互いの顔を見合う。
「魔王様! どうぞお慈悲を!」
剣士が乞う。
「慈悲? わたくしにとっての慈悲は、あなた方を死霊にして天に昇らせることでございます。そうされたいというわけでございますね?」
わざとゆっくり立ちあがる。
「い、いえっ! そうではなく!」
だろうな。死んでからの方が、よっぽど楽しんでるものな。
「いずれにせよ、人の国の軍はまたわたくしを殺しに来ます」またドカッと音を立てつつも骨盤に気をつけて座る。「その際、あなた方には案山子になっていただきます。一切の反撃を封じた、切り刻まれるだけの案山子に」
お前たちはもう十分楽しんだ。
「退がりなさい。顔も見たくありません。城から出ることは禁じます。破った場合には腐った魂にいたしますので、そのつもりで」
元英雄あるいはならず者たちは、まろびながら魔王の間を出ていった。
「あの…、魔王様」
部屋の隅に固まっていた血色不良ガールズがおずおずと進み出た。
「どういたしましたか?」
「私たちに、あの、お慈悲を与えてもらえないでしょうか…」
リーダー格と思われる少女が、ほかの少女を後ろに従えながら言う。
「魔王様にとっての、お慈悲を…」
胸が衝かれる思いがした。
彼女らは拐かされ、殺された上に、女性としての尊厳も踏み躙られていたのだ。死してまで。どれほど恐ろしく、悔しかっただろうか。腐った魂になってしまってもおかしくない。
「ああ、あなた方には本当に、本当に辛い思いをさせました。お詫びいたします。心から」
床に膝をつき、頭を垂れる。
「魔王様、そんな…」
12人の少女たちは困惑する。
「あなた方は本当によく頑張りましたね。腐った魂になってもおかしくはなかったのに。さあ、苦しみを忘れ、振り返らず、まっすぐ天に昇るのですよ」
立ちあがり、少女たちを抱きしめる。これくらいしか、あなた方にして差し上げられることがない己の非力を呪う。
『解』
少女たちが一斉に力を失い、その場にくずおれた。魂が天に飛び去る。
「さようなら、血色不良ガールズ。天がどのような場所か、わたくしは存じません。生まれ変わりがあるのかも。でも、天が素敵なところで、今生の苦しみが生まれ変わりによって癒されればいいと、今は思います」
わたくしは少女を1人ずつ城の裏庭に運び、埋葬した。この森で唯一毒に冒されていない土に。魔術師がかけた嫌らしい腐敗抵抗の魔術は、力ずくで破った。あなた方の身体が、土に還りますように。王太子にもあなた方の墓を訪れるよう頼んでみよう。次に会うことができたなら。
肉のない身で本当によかった。肉があったら泣いていた。さようなら。さようなら、血色不良ガールズ。




