08話 魔王の娘
今後の方針を立て直しです
「久しぶりだな、エール」
玉座の背もたれに胡坐をかいて座る少女が、手をひらひらと振っていた。
魔物たちの村を出発してから、キールの案内で歩くこと約2時間。驚くほどあっさりと魔王の城に到着した。
こんなに国境の近くで大丈夫なのか……?
「サーニャちゃん! お久しぶりです(笑)」
つい最近、夢の中で会ったばかりだったが、そのことを女神に悟られてはいけない。ここでは、あくまで“久しぶりに会った”ことにしておく。
「うむ。懐かしいな」
「前にこの世界に旅行で来た時以来なので……10年ぶりくらいでしょうか?」
「それは天界の時間軸であろう。この世界では、二〜三百年ぶりではないか?」
エールは「少し前に来た」と言っていたが、王都の一角で神として崇められていた話などもあり、色々と矛盾している。どうやら天界とこの世界では、時間の流れや体感時間が大きく違うらしい。
「隣の男は初めましてだな」
「あ、はい。ヤスといいます」
「私の勇者様です(笑)」
「そうか。他の者らは?」
「ルンです」
「カンナよ♥」
「ふむ。タマキだ」
「うむ、よくぞここまで来た。さぞ疲れたであろう。話は、食事でもしながらにしようではないか?」
「エール?」
タマキがそっと耳打ちしてくる。
「なんですか?(笑)」
「ふむ。麻婆豆腐は出るのか?」
「サーニャちゃ〜ん! あれもお願いします(笑)」
「ああ、わかっておる。すでに作らせておるから安心せい」
「なにそれ、こわい」
ふと気がつくと、ルンがいつの間にか給仕係に声をかけていた。
「今日のメニューはなんですか?」
「皆様の好みを、あらかじめサーニャ様から伺っております。どうぞお楽しみに」
なんで知ってるんだろう……
「それは楽しみね♥」
「ですね!」
なんでこの子たちは、こうも自然に受け入れられているのだろうか。
食事も終わり、お茶を飲みながらくつろいでいると、サーニャが口を開いた。
「さて、要件を聞こうか。エールよ。何しに来た?」
「旅行のついでに寄っただけです(笑)」
「そうか。ならば、好きなだけ滞在していくといい」
やり取りは表向きにはごく無難なもの。だが、おそらく詳しい話は今夜、夢の中で行われるのだろう。
にしても、二百年ぶりでも息が合うんだな、この人たち……
気がつくと、また夢の中にいた。
「あれ? ここはどこですか?」
「あら?♥」
今回は、ルンとカンナも一緒のようだ。
「タマキさんは、万が一に備えて呼びませんでした(笑)」
とエールが続ける。
「何かあって一生起きられなくなったら困りますからね(笑)」
さらっと怖いことを言う。
場を仕切るように、サーニャが口を開いた。
「さて、世界征服の話だが……」
「どういうことかしら?♥」
「かくかくしかじかです(笑)」
エールがルンとカンナに、要点を簡単に説明する。
──この夢の中は女神の監視が届かないこと。 ──現実世界では悟られてはならないこと。 ──そして、最終的に女神を蹴落とすこと。
「なるほど、ついに世界を」
「急に魔王国に行くって言い出した時は、何かあるなとは思ったけど♥」
「適応早いな」
「前にも『世界征服したい』って言ってましたよね? 今さら驚きませんよ」
「まあ、そうなんだけども」
「世界征服は、あくまで過程です(笑)」
「そう。女神を倒し、エールをこの世界の神とするための、一過程に過ぎない」
サーニャは顎に手を当て、ニヤリと笑う。やはり、この世界の女神に対してかなりの恨みがあるのだろう。
「つまり……私たち、神側の人間ってことね♥」
「はい。近い将来、この世界で語られる神話の重要キャラです(笑)」
「おお、私が神に……!」
「ルン、それはちょっと語弊があるぞ」
この子、どさくさに紛れて神になろうとしている。
「それで、具体的にはどう動くんですか?」
ルンが急に真面目な顔で尋ねる。
「まず、夢の中でのやり取りは悟られてはいけない。これは最重要だ」
とサーニャが口調を引き締める。
「次に、明日。現実世界の食事の場で、私が世界征服の計画をお前たちに持ちかける」
「それって、女神にバレてもいいんですか?」
「おそらく女神様は、この世界の人類がどうなろうと気にしていないと思います(笑)」
「そうだ。自分に危害が及ばない限りは、こちらの動きには干渉してこないだろう」
だんだんややこしくなってきたぞ。
えーっと、女神にバレてはいけないのは……
「この夢の中の連絡手段と、最終的な幽閉計画だけです(笑)」
「それから――ここで決めたことを、現実世界で唐突にやらないように気をつけるのだぞ」
「ナチュラルに思考を読まないでください」
ヤスに安息の場はないようだ。
「まあ、バレたらその時はその時です(笑)」
「楽観的だなー」
それでも、不思議となんとかなる気がしてしまうのがエールの言葉だった。
お読みいただきありがとうございます。
ついに世界征服にむかうことになりました。
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